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#7 甘鯛と聖護院かぶらのスパゲティ 黄ゆずの香りで

笹島保弘 / IL GHIOTTONE

今回、未来へ遺すべき作品に挑む料理人は、イル・ギオットーネの笹島保弘シェフ。

東京と京都の店を昼と夜で行き来するほどの現場主義。
大阪に生まれ、18歳で料理の道に飛び込み、24歳で単身イタリアへ。帰国後、京都の繁盛店でシェフを務めた後、2002年、京都ならではの素材を生かした、京都発信のイタリアン「イル・ギオットーネ」をオープンさせた。

お店の名前「イル・ギオットーネ」とはイタリア語で美食家。
彼らをもてなすためにあみだしたのが、旬の京野菜をふんだんに使ったイタリアン。そもそもイタリア料理はその土地土地の風土に根差した郷土料理の集合体。同じく郷土料理の集合体である日本料理とは相性が良い。

「もしイタリアに京都という州があったら」

というお店のコンセプト通り、笹島シェフの作る料理は、イタリア料理のテクニックと精神を強く根付かせながらもそれに固執せず、独自の日本らしさ、京都らしさを加減よく入れる、イタリア料理と京料理を融合させた料理。

笹島シェフの手にかかれば、イタリア料理の華のパスタも京料理の命「だし」と見事に融合する。ゆであがりの2分前、まだ固い状態でパスタを湯切りし、だしの中へ。しっかりとだしを吸わせることで、麺ののど越しよりもじゅわっとでてくるだしを重視したパスタに仕上げる。

合わせる具材もイタリアでは普通、いのししにはこしょうを合わせるが、丹波のいのししには山椒を合わせる。一方で、たとえ日本の食材を使おうとも、スプーンを使わず、フォーク一本で食べられるという絶対的に守らなければいけないイタリアのパスタのセオリーはしっかりと守る。


そんな笹島シェフが完成させた未来へ遺すべき作品も、イタリア料理のスパゲティと京野菜からとった「だし」を融合させた一皿。

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甘鯛は塩をふって水分をぬき、利尻昆布でサンド。浸透圧で昆布の旨味をしみ込ませる。鍋に焼いた甘鯛の骨と干したかぶら、干しシイタケと軸、水でもどしたドライトマトを入れ、日本酒を回しかけて火にかけ、料理のベースとなる最高の京だしを作った。

スパゲティはゆであがりの2分前にだしの中へ。しっかりとだしをしみ込ませ、蒸しあげた甘鯛とかぶらの葉を加え、ゆず皮をふり、京都の旨味がたっぷりとしみ込んだ王道のスパゲティに仕上げた。

笹島シェフがこの一皿に込めた想い。
日本人としてイタリア料理を日本で日本人のお客さんに作り続けていく中で
悩んでいきついた形。このパスタであれば、日本人なら口に合うし、理解してもらえる。日本人の心に触れるイタリア料理を遺していきたい。

イタリアの食文化と日本の食文化という郷土料理をルーツにもつ2つの食文化を融合させて作られた一皿は、はじめて食べるのにどこか懐かしさのようなものを感じさせてくれた。

おいしさは高級食材や味だけではない。このどこか温かい気持ちにさせてくれるおいしさは、私たち日本人の中に知らず知らずのうちに脈々と引き継がれてきた食文化があってこそ。

この心を満たすおいしさを、100年先の未来にも遺し続けたいと思わせてくれる一皿でした。

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