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第7章. 再び『錬金学』とは何か?

筆者は、第1章において『錬金学』の定義をしようとして考察しました。
しかし『AI時代』の本質について考えた時、定義の不備に気づきました。
それは、筆者自身の思考範囲が、自分自身でも気づかない内に「資本主義」制度を前提にして考えていた事に気づいたからです。
。。。これは前章で述べた『メタ思考』の成果ですね。

つまり、『AI時代』と云う時代にまで「資本主義」が現在の姿のまま続いているという前提に、何らの根拠も保証もない訳ですから。
否、筆者の予想ではもっと積極的に、「資本主義」が変質してしまう、進化
する、悪くすると崩壊してしまう、と考えるからです。

そこでこの章では何よりもまず最初に、筆者が言う処の『AI時代』の定義
を明確化する事から、お話を始めましょう。

■ 『AI時代』の定義

さて『AI時代』の定義についてですが、ここでは<筆者が云う処の『AI時代』>の様に、制限付きで定義する事にします。
この文章を書いている2020年1月の時点で、『AI時代』の用語は既に
広く普及していて、誤解を生じる恐れが出てきているからです。

「はじめに」で書きましたとおり、筆者は2017年夏から、gooブログ上
で『AI時代の錬金学』をテーマに記事を書いてきました。
その当時は『AI時代』という用語を使っている文章を、あまり目にしなかったのですが、総務省が平成30年版の情報通信白書において「AI時代に求められる能力」の様に公式に使い始めてから、急速に世間一般へと普及した様に感じています。

実は、gooブログ上で、筆者は『AI時代』という用語を既に明確に定義し
ています。

【ポストAI時代を考える-量子通信の可能性は?】

日付を確認すると、「2019-03-17」となっていますから、昨年書いた記事
なのですが、PVも多く、かなり好評で、重要な記事だと感じられるので、次に再掲しておく事にします。

【ポストAI時代を考える-量子通信の可能性は?】
2019-03-17 | AI時代の錬金学

私は、これまで『AI時代』の世の中の変化について考えて来た。
これまで『AI時代』の開始/終焉時期については、具体的に考えてみなかったのだが、よくよく考えてみると、それは概ね 2019年から2045年までの時代の特徴である。

『AI時代』の開始時期については、定義がなかなか難しいが、仮に『5G通信』がスタートする今年(2019年)としておこう。

現在のAIブームは、ディープラーニングの実用化に端を発する『第3世代
人工知能』と考えるのが普通だと思うのだが、それは爆発的な普及の結果、すでに意味処理の実現にまで進んでいて、それは『第4世代人工知能』と呼んでも良いのかもしれない。

ニューラル・ネットワークのモデルは、人間の神経系の情報伝達のしくみを
シミュレーションしているのだから、物理的な制約が無くなれば、早晩『バーチャル知性』が顕われる。

一方、人間の「感性」については、人体のホルモン調整機能と密接に関わる
と考えるので、もう少し「人間の感情」のシミュレーションには時間がかか
りそうだが、高分子化合物の解析、シミュレーション技術も高速に進化して
いるので、それも単に時間の問題だと思う。

おそらく、これが『第5世代人工知能』になるのだろうか。

そのときは、人間の「意志」と「意識」もシミュレーション可能で、まさに『バーチャル人間』が実現可能だ。
ただ、これが善悪の判断を正しく行い、リアル人間の側が倫理的な問題を
解消していればの話なのだが。

この時期を、例の『シンギュラリティ』の時点と考えて、2045年としておこう。
すると、『AI時代』はここで終焉時期を迎える。
「未知の課題」は無くなるので、以降は「特別な名称」を必要としないだろう。

では、この時期の通信技術は、どうなっているだろう?
『5G通信』の次には『6G通信』が考えられていて、その研究もスタート
している様だ。
しかし、これも原理的には従来の『セルラー通信』の延長線上の技術である
らしい。

私が『ポストAI時代』を意識した理由は、この『未来の通信技術』が問題
だからだ。
『ポストAI時代』に発生する重要な技術課題は、宇宙空間での通信だ。

ここで思い出して欲しい。
私達が眺める星空は、実は『現在のリアルな星空』ではないのだ!

1光年離れた星の光は、1年前に発した光が今地球に届いている訳であり、
10光年離れた星のものは10年前のものである。

結局、私達が眺める星空は「様々な過去の時点の姿」の寄せ集めにすぎない
まるで意図せずにタイムマシンに乗った気分である。

『宇宙開発の時代』には、これが本格的な大問題になる。
「宇宙空間での超高速通信技術」その必要性が高まるはずだ。
「光速度を超える通信技術」つまり『量子通信』の時代なのだ。
そして、その研究はすでに実用化段階まで来ている事を知った。。。

『量子もつれ』すなわち『EPRペア』を利用すれば、なるほど、これは原理的には可能なはずである。
『量子コンピュータ』で『量子状態の操作』が可能であるのなら、そこに
人工知能を組み込んで、10光年離れた星の上で、『バーチャル人間』と
タイムラグ無くリアル交信する事が可能なはずだと思う。

『ポストAI時代』の様子が、少し見えた様な気がしました。
もし私が運良く(?)100歳まで生きていたならば、体験できるのかもしれません。。。

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今、テレビでニュースを見ながらこの原稿を書いているのですが、本日NTTドコモが展示会で発表した、次世代通信網『5G』及び『6G』の話題が取り挙げられています。

この分野では、中国のファーウェイが世界で最も先行していて、既に日本は「1年の遅れ」を生じています。
『5G基地局』の展開では、既にファーウェイが「世界制覇」する勢いで、積極展開していますから、日米はスクラム組んで、これを阻止しようと防戦体制に入っている訳です。

米中貿易摩擦の核心は、日米の時間稼ぎに本質があるのです。

この様な現状を考えると、既に『AI時代』真っ只中にいる事が分ります。

■ 資本主義の錬金術

さて、『AI時代』の定義を行ったので、次に『錬金学』の定義に進みたい
のですが、その前にここで「資本主義の錬金術」の特徴について再考してお
く事にしましょう。

「錬金術」が盛んだった中世の時代、錬金術師達が取り組んだのは、主に「金」の生成をはじめとする「貴金属」の精錬もしくは生成術です。
すなわち、それは「物質」の生成術なのです。

資本主義の時代になっても、その流れを引き継いで、国際通貨の場では最初
「金本位性」が採用されていました。
各国内で流通する「自国通貨」と「金」との交換比率を法律で定義して、「自国通貨」に「信用」と「保証」を付与して流通させていた訳です。

国はいつでも金との交換に応じられるように、発行した通貨と同額の金を
中央銀行に保管しておく必要があります。
1816年、この金本位制を世界で初めて法律に基づいて採用したのがイギリスです。
交換比率は「金1オンス(31.1035g)=約3.17ポンド」でした。
金本位制は、産業革命によって飛躍的な経済発展を遂げた同国の貿易拡大と
ともに他国にも広がり、国際通貨制度として確立されました。

そうすると、「偽札作り」もある意味で「錬金術」になります。
「偽札」は、あくまで「偽もの」ですから、それは「偽の錬金術」なのです
が、ここで重要な事は「貴金属」ではない「通貨」に「価値」が変換可能に
なった事実です。

これは、その後の資本主義の発展にとって本質的に重要な「錬金術」なので
す。

しかし、中央銀行が「自国通貨」と「金」との兌換を保証していた時代には、結局のところ、自国が保有する「金」の量に「通貨供給量」は制限されていました。
これが1929年に生じた「世界大恐慌」の本質的な要因であったと、筆者
は考えています。

第二次大戦後には「金本位性」に代えて、「固定相場制」が採られました。
「固定相場制」とは、ドルと円の相場(値段)が「1ドル=何円」としっかりと「固定」しているという制度でした。
この制度の下では、あらかじめ決められた金額のお金が手元に入るため、世
界のお金の取引はとても安心して実行できました。

しかし、世界中の資本主義の発展と供に、基軸通貨であるドルの管理が困難になります。
そしてとうとう、現在の「変動為替相場制」に移行した訳です。
これによって資本主義は、事実上無限に「価値」を増大する事が可能になっ
た訳です。

実際、産業革命を契機として「資本主義体制」が形成されると、その後瞬く
間に資本主義は発展を遂げたのです。
この間の事情は、すでに第2章で書きました。

『産業革命』と『株式会社』、そして資本の自己増殖を可能とする『利子』
こそが「資本主義の錬金術」の核心であり、従ってそこから様々な「錬金術」が考案できるのです。

『産業革命』を始めとする『技術革新』が新たな「価値」を創造し、『株式
会社』はそれを市場に供給するための組織を形成し、『株式』はそのために
必要な『資金』の調達を可能にする。

勿論、新たな「価値」が大量に創造される時には、大量の『資金』が必要です。
『資金』の創造を可能にするのが『株式』と『利子』な訳です。

つまり「資本主義」と云うシステムは、「資本」をエネルギー源として駆動
するマシンである、と言っても良いでしょう。

これまで「資本主義」は「共産主義」との対比によって、「自由主義」と「民主主義」と云う政治システムを、経済的に表現するシステムの様に混同して定義され、理解されていますが、その本質は「資本」を「価値」と定義する制度の事なのです。

前述の定義と理解とは、「共産主義」の創造主であるカール・マルクスによって定義されたものでしょう。

「共産主義」の特徴を正当化する意図が感じられますし、「資本主義」の理解には、彼特有の唯物史観の影響が感じ取れます。

『唯物史観』は、物質系のみによって歴史の動きを理解しようとする思考法なのです。

これまでは、「価値」の定義を「金」から「通貨」、さらには「土地」や「株式」まで含んだ『資本』へと拡張する事によって、その成長が担保されてきました。

しかし、そのままでは未だ即物的、物質的な価値のレベルの話です。

従って、その成長には、やがて限界が現れます。

高度情報化社会と呼ばれて久しい現代では、既に「通貨のデータ化」が極端に進んでいて、『資本のデータ化』と『利子』とによって、もはや『資本』は空間的にも時間的にも、増大の制約が無くなって成長しているのです。

■ 資本主義の終焉 -「AI時代」の到来が与える社会へのインパクト

ここでは、筆者が何故「資本主義の終焉」と言う言葉を使うのか、その理由
を説明してみたいと思います。

これは前節で述べた『通貨のデータ化』と密接な関連があります。

大元を辿れば、そもそも国際通貨の場において、「金本位性」が無くなって
「変動為替相場制」に移行した時から始まるのですが、「変動為替相場制」
への移行に伴って、「資本主義」は更なる成長の機会を得た、と同時に『通
貨のデータ化』が始まって、どんどんと不安定なシステムになったのです。

「カジノ資本主義」と言う言葉が定着して久しいですが、それは「人間の
制御の及ばない世界での出来事」と云う意味において、「自由放任市場」の
「お手本」でもありました。

アダム・スミスはこれを『神の見えざる手』によって自動制御されるマシン
と考えた訳ですが、しかしその際に『前提条件』を附しておりました。

 ① 『市場参加者』は『合理的経済人』である事

 ② 『市場の情報』が完全に利用可能な事

しかし、「AI時代」においては、この事情が変化します。
『市場参加者』は『合理的経済人』では無く、『超合理的なAI』なのです。
複数の分散した「AI」が自己の目的と意志をもって、共働して市場を監視し、制御する時代がやって来ると予測されるのです。

これは、ある意味で市場の安定化を意味する事かも知れません。
あるいは悪くすると、それ以前に大変深刻な事態を生じるのかも知れません。

どちらに転ぶのかは現時点では分からないのですが、間違いのない事は、
それは必ず起こると言う事と、その結果、市場が変質すると云う事です。

この時、もはや従来の意味での「資本主義」は、「資本主義の終焉」を迎え
る事でしょう。
そして、一般の人々ではその事実になかなか気づかない事でしょう。

分散した個々の「AI」達は、当初共働するのでは無く、「利己的」に動く
事でしょう。
自己の目的は、市場の安定化では無く、キャピタルゲインの極大化、もしくは最大化であると考えられるからです。
つまり、市場の変化を望んでいます。

しかし、それが上手くいかない事が分かると、今度はインカムゲインの極大化、もしくは最大化を意図する事でしょう。

その為、共働して市場を安定化させる動きをする、と予想されます。

ひょっとすると、これらの事は、既に起きている事かもしれません。
「リーマン・ショック」は、実のところ、それが原因かも知れないのです。
* これは、あくまで「仮説」です。
「リーマン・ショック」の経過については、当時下記に書きました。https://blog.goo.ne.jp/ayakikki/c/cb98c534b943bbde57145c937979d818

「リーマン・ショック」以降、人々の意識は明らかに変化しました。
保護主義が台頭する様になったのです。https://blog.goo.ne.jp/ayakikki/e/461a19583b67706ecb2af9fd8a31b054

また、仮想通貨が本格的に使われる様になりました。

通貨の管理を国に任せておけなくなったのです。

各国の中央銀行が、この事実に気づいた時にはどう対応するのでしょうか?

おそらく、各国で自国通貨のデジタル化が進む事でしょう。
その目的は、外国為替市場と自国通貨供給量の「AI」による管理です。
* これについては、下記を参照。https://twitter.com/zen_kawakami/status/1220086827173859329

こうして、「資本主義が実質的に終焉する時」を迎えるのです。

■ 価値観-価値とは何か?

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