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失敗が怖いアスリートへ(後編) 安心感を生み出すメンタルトレーニング

前回に続き、「失敗を受け入れる心」の大切さについてお伝えします。

前回の原稿はこちら
https://note.com/zen_akano/n/nf9bfb08e6dac

ここからは、メンタルトレーニングを超えてスポーツをアートするという領域に入っていきます。


失敗を怖れるのではなく、失敗に飛び込めるか。


前回もお伝えしましたが野球のイチロー選手のように、失敗はどんなトップ選手でもおこります。大事なのは、失敗した後の心のあり方です。プレーというのは、プレーする前から実は決まっているのです。

プレー後に結果にジタバタするなら、ジタバタしたプレーになります。
プレー後に起こったことが許せないなら、許せないプレーになります。
プレー後に起こったことから目を背けるなら、逃げたプレーになります。

逆にいえば、プレーした結果どんなことが起こっても、笑って許せるなら、笑顔のプレーになります。許せるプレーになります。

起こることは仕方ないと思えているから、振り抜けていけるのです。許すこともふくめて、何かが起こった後の受け入れる力がつくほど、安心感は増していきます。


これは子供が母親の胸に飛び込むようなものだと言えます。母親の深い愛を感じられているから、思いきってその胸に飛び込んでいけるのです。だから、飛び込む前から、もう大丈夫なのです。この大きな安心感が未知の行動に飛び込む際の大きな勇気になります。プレーや身体を愛してあげるほど、プレーに飛び込んでいけます。

逆に自分を愛せていない、あるいはプレーを否定しているほど、どんなに強い勇気を持とうとしても、肝心なところで逃げてしまいます。誤解がないように申し上げると、逃げるのが悪いのではありません。まずは、どんな結果になっても、受け入れて、許して上げられるか。

ある女子プロゴルファーは、ここ一番になったとき大きなミスをしてしまうことが課題でした。メンタルトレーニングを受ける前は、自分に負けてしまうことが問題だと思っていたので、いかに技術を磨き、自信がない自分に打ち勝つかに取り組んでいました。しかし、自分に勝つというテーマでは、さらに恐怖が増していきました。自分に負けてしまうかもと思うと、足の震えが止まらなくなったりしました。

これは、プレーするまでにこだわった心の持ち方です。多くのスポーツ選手は、プレーするまではとてもこだわります。一方で、起こったことに対しての扱い方がとても雑なのです。

このプロゴルファーの場合、本当に取り組むべき課題は、自分に勝つことではなかったのです。勝つというのは、自分を否定し、許せない気持ちがさらに強くなってしまう方向だったのです。一番自分を罰しているのは、自分自身だったことに気づいたのです。

ほとんどのアスリートは、プレーした後、結果に心が持っていかれて、実は許せない気持ちや受け入れていないことに気づけていないのです。プレー→結果の分析というのは、普通の思考の流れです。いかに、プレー→許して受け入れるという流れに心を向けられるか。

本当のテーマは、自分を許し受け入れてあげることだったのです。自分を許せるようになってくると、自然に足が震えることがなくなりました。

ある試合の後で、「最近あーなったらどうしよう。こーなったらどうしよう。と自分の中で言っている声が小さくなってきました。前は目の前でマイク越しに叫ばれている感じでしたが、最近は小声で言われている感じになっています。」と語っていました。

失敗を許し受け入れる心を持っているから、人は未知の世界に果敢に挑戦していけます。結果はプレーの後にわかるのではなく、プレーする前にすでに決まっているのです。

コーチという役割は、キャッチャーミットのような存在ではないかと思います。どんな球を投げてもキャッチャーが必ず受け止めてくれるという安心感があるから、ピッチャーは思いきってボールを投げ込んでいけるのです。

自分の中にキャッチャーがいる人のプレーにはしっかりした土台があります。どんな自分も受け止めてくれるという土台は、プレーの安心感につながります。そして、この安心感があるからこそ、未体験のゾーンへと飛び込んでいけます。身体と直感に委ねたアーティスティックなプレーは、未体験のゾーンにあります。

スポーツのメンタルトレーニングでは、まずは起こったことを受け入れることをやっていきます。失敗だと思っても、まずは許すこと。許して受け入れられるほど、次のプレーへの切り替えが早くなっていくことに気づきます。

切り替えが上手くできないという人は、切り替えるという以前に、許して受け入れることが出来ていないと言えます。

ここまでは一般的なメンタルトレーニングで言われていることでしょう。

そして少しずつ許せるようになってくると、次の段階に移ります。

それはプレーする前に、どれだけ結果を受け入れる心の準備が出来ているか。

先程の親子の話でいえば、親の愛が感じられていないとき、なかなか母親の胸に思いきって飛び込んではいけないでしょう。これは自分自身も同じです。自分への愛が飛び込む前に感じられていないと、自分に飛び込んでもいけないのです。これは、飛び込んでいく準備が出来ていないということ。

トレーニングでは、受け入れる準備度合いを点数化していきます。どんな結果が起きてもOKと思えていれば5点です。失敗が許せそうにないと思っているなら1点です。野球でいえば、バッターボックスに入る直前、陸上でいえばスタートする直前、ゴルフでいえばショットやパットをする直前にチェックしてもらいます。

すると、トップアスリートでも、意外なほど、受け入れる準備が出来ていないのです。どう打つか、どうスウィングするか、どういうプレーをするかということはとても大事にしているのですが、プレー後の準備は出来ていないのです。これでは、母親の胸に安心して飛び込むことは出来ません。

そして、直前のチェックが出来るようになってくると、さらにプレー後に実際どれだけ受け入れることが出来たかをチェックしてもらいます。選手によると、このチェックをやってみると、予想以上に心がアップダウンしていることに驚くようです。


プレー後に起こったことを許して受け入れるというのは未来のことです。しかし、この未来への決断をしっかりと持っておくことで、それは「今この瞬間」を豊かにします。未来から今という矢印も今この瞬間には存在しているのです。

どんなことも許して受け入れる準備(未来への安心感)→失敗に飛び込んでいける勇気が湧いてくる→ノビノビとしたプレー

あなたが胸に飛び込めるということは、母親の愛があなたを待っているからです。待ってくれているから飛び込めるのです。あなたが結果に向かって打つということは、結果があなたを待ってくれているのです。

結果を出したいという気持ちが強い選手ほど、プレー前に、さまざまな許せないことを持っているのです。それは意識的なものもあれば、無意識のものもあります。

最初にお伝えしたプロゴルファーは、このプレー前に許すことを決めるトレーニングを重ねる中で、今までに味わったことがない大きな安心感が生まれてきたそうです。

「先日の試合は、どんな結果になっても受け入れるよ!って呟きながらやってきました。少しずつですが赤野コーチが言っていた母親の胸に飛び込むというのがわかってきました。不安で怖くなる場面もありましたが、それもビビることなく受け入れる準備ができているので、挑戦してみることができました。実は、ボールが曲がることよりも自分が思うように動けないことに一番嫌な気がするんですが、そうなってきていた時に、そうだ。動けなかった自分もそのままのその時の自分なんだからそれも受け入れてあげなきゃ!と思うようになってから、なぜか体が動きやすくなりました。ほんとに身体って面白いです。

やはりいつも何かをする前から、自分の想像した良い未来と違うことが起きたらどうしよう。とか期待と違った時にすごくガッカリしたりします。でもゴルフだけでなく人間関係も、まずはそれも受け入れるところから見ていると全然違って感じるんだなと思いました。愛を持って受け入れることを意識していると、だんだん「私」という存在が消えていきました。結果や身体に導かれるような感覚がとても心地よかったです。」

面白いことですが、プレー前に、すべてを受け入れておくことをトレーニングしていると、受け入れられない自分が見えてきます。どれだけ自分を否定しているかを知ることが、一番大事な気づきと言えます。それが愛に飛び込むプレーへの入り口です。

ちなみにイチロー選手が語ってきたさまざまなコメントには、自分への深い愛を感じます。どんな自分でも受け入れ、許す覚悟を持っていたと思います。だからこそ、どんな挑戦にも挑んでいけたのではないでしょうか。

どんな失敗もミスも受け入れる心を育てていきましょう。それが心の修行です。


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