中途半端にならないために まずは「できないこと」を知る
私は長らく勘違いしていました。
おかげさまで食堂を開業して無事一年を迎えることができました。この一年で分かったことがあります。
それは私が「戦略」にまったく興味がないこと。
食堂をはじめるまでは、戦略面もいけると、どこかで思っていたのです。理念を掲げて、長期ビジョンを描く。そして、それを実現するための目標を立てて、コツコツと努力していく。
会社員のときも、コーチとして独立してからも、そうやって生きてきたと思っていたのです。食堂をはじめるにあたっても、戦略のようなものを考えてはいました。
しかし、それは勘違いでした。
確かに以前は出来ていたかもしれません。でも、かなり無理をしていたのです。いや、中途半端にやっていたという方が正しいかもしれません。
食堂との出会いの中で、できないことがハッキリ分かりました。
お客様を獲得するには、いろいろな方法があります。チラシを打つ。SNSで宣伝する。テイクアウトを充実させる。宅配をする。夜の営業をする。マーケティングをして人気メニューを開発するなど・・・
しかし、そのアイディアを実現することをしませんでした。必要なことは分かっていても、まったくやる気が湧かなかったのです。むしろ、戦略をたてて新規のお客さんを広く獲得することに怖ささえありました。だから、中途半端に戦略を立てて売り上げを伸ばすことはやめました。
私が取り組んできたのは、人間関係作りでした。いかにスタッフが幸せに働けるか。来てくれるお客様が笑顔になるか。そこにはすごく興味がありますし、無理なく努力することができました。
私は人間関係にしか興味がなかったのです。それを食堂が教えてくれました。一年やってみて「できないこと」が見えてきたのは、すごく面白いです。
三幸食堂には3つの願いが込められていました。
・働く人が幸せでありますように
・周りの人が幸せでありますように
・生きとし生けるものが幸せでありますように
コロナ禍の中で、売り上げが一気に落ちた時期もありました。一番悲しいのは、売れ残ったお惣菜たちです。せっかく女性陣が心を込めたつくったおかずが残っているのを見るたびに、胸がキューッとなっていました。
そんなある日、「もし売れ残ったものがあるなら全部引き取るよ」というお客様が現れたのです。この人は常連さんで、食堂のことをとても気に入ってくださっていました。なぜか気が合うので、帰り際には世間話もするようになっていました。
この方、実は会社を経営されていて、食堂のお惣菜を社員に食べさせてあげたいというのです。
それからは、残ったお惣菜はすべてその会社が引き取ってくださいました。社長さんも「女性スタッフの夕食作りの悩みが減って喜んでいます。これこそWin-Winですね」と言ってくださいました。
後から聞いた話ですが、どうも福利厚生の一環で、会社が購入費をかなり負担してくださっているみたいです。
こんな神様みたいな人がいるのだと思いました。
そして、気がついたら食品ロスはゼロになっていました。
3つ目の「生きとし生けるもの幸せ」を実現できていたのです。
そして今、オミクロンが猛威を振るっていますが、実は来店客は減っていません。常連さんがしっかりと来てくださっているのです。
そういう意味では、この一年で土台作りは出来たのかもしれません。やはり土台は人間関係なのだと思います。
いかに人間関係を深めていくか。それしかできないのです。
おかげさまで、私のこれからの人生は「人間関係に生きる」ということが見えてきました。
「できないこと」が分かると、出来ることが見えきます。
この食堂での気づきから、コーチとしての軸が見えてきました。
コーチとして独立した当初は、経営者の理念作りから戦略立案、目標設定などのテーマを中心にセッションしてきました。いわゆるエグゼクティブコーチングというやつです。
しかし、それが禅の修行を重ねる中で、少しずつセッションが「人としてのあり方」に変化していきました。
しかし、どこかで両方を扱おうとしていたのです。よくいえば、バランスをとっていたのですが、中途半端でもあったのです。
最近は、目標を扱うことはなくなりましたが、それでもクライアントさんは減りませんでした。実は、クライアントさんは戦略立案や目標の設定についてはご自分で出来る方ばかりだったのです。私ごときが扱う必要はなく、余計なお世話だったのです。
いわゆる経営という枠に囚われず、いかに独自の道を歩むか。
生きるということを仕事を通して追求したい。
「自分のあり方」や「社員との人間関係作り」がクライアントさんの課題でした。
何かに囚われ、偏っていないか。無理をしていないか。不自然ではないか。大切なことを見失っていないか。本来の自分とズレていないか。
去年からコンテントとプロセスについてお伝えしてきました。コンテントは理念、戦略、目標、結果であり、仕事を「テーマ」として捉える見方です。
一方で、プロセスは「今起こっていることすべて」です。それは思考、感情、身体性、直感、周りとの関係など。つながりの中で生かされている自分が、世の中にどう貢献するか。これは仕事を「魂」として捉える見方です。
魂を磨く「プロセスコーチング」が私の出来ることだったのです。
今、自分には何ができるのか分からないと悩んだり、したいことが見つからないと無気力になったりしている人も多いです。これは「できること」「したいこと」ばかり見ようとしている状態と言えます。
今回お伝えした「できないことを知る」というのは、やる前から自分にはできないと諦めることとは違います。やる前から自分にはできないと諦めるのは、運命という渦を傍から眺めながら、頭で考えて答えを出している状態です。
そうではなく、まずは渦に飛び込んでみること。
渦に飛び込み、とにかくやってみる中で、体験の中から、本当にできないことが見えてきます。
まずは、やってみる。だから、できないことを知ることができます。
できることにこだわっている人は、創造的であることに囚われているのかもしれません。そういう場合は、非創造的なことに没頭することをオススメします。
非創造的なこととは、掃除、庭の雑草を抜くことなど、一見すると無駄に見える単純作業です。これらに没頭するのは、まさに禅の修行であり、私の食堂の日常でもあります。
面白いもので、非創造的なことに没頭していると、その横にある創造的なことが見えてきたりします。まさに「できないこと」の隣には「できること」があるように。
もし、あなたが今「やりたいこと」「できること」が見えなくなっているとしたら、中途半端になっているのかもしれません。
できないことが見えてくるまで、まずはなんでもやってみたらいいのです。正しい、間違っている、と考える前に、とりあえず体験してみたら良いのです。
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