視覚情報が聴覚刺激に与える影響に関する調査報告

こんにちは。明治大学情報コミュニケーション学部石川ゼミナールです。今回は、表題のテーマに関する研究結果をまとめていきたいと思います。

調査内容と目的

昨今、YouTubeなどの動画サイトで、「ASMR」という動画が人気を集めています。「ASMR」とは、音から得られる快感を楽しむ、いわゆる「音フェチ」動画です。

画像1

ASMR現象については未だ研究が進んでいませんが、先行研究から、音に含まれる高周波成分がリラックス効果をもたらしている([5]David Sonnenschein D. ,2001)、つまり音に快不快の感覚を引き起こす要素があることがわかっています。しかしながら、視覚情報と聴覚情報は共に感性・情動神経系で統合され「快・不快」の価値判断がされている上、人間は視覚からの情報に大きく依存している側面があり、音の識別は視覚情報に頼っている可能性があると考えました。

感覚刺激の処理

[1]本田学「感性的質感認知への脳科学的アプローチ」(2012)

以上のことから、果たしてASMR現象が聴覚刺激単体から引き起こされるのか、映像による視覚刺激との相乗効果で引き起こされるのか、調査してみることにしました。

仮説

同じ音を聴いていても、映像による視覚刺激の違いから、ASMR効果に差が出るのではないか。

調査手法

音と映像の組み合わせを変えて、それぞれの心理的作用の比較を行いました。

検証方法

撮影に使用した機材→カメラ:SONY RX100 Ⅳ、マイク:SONY ECM672、レコーダー:ZOOM APH-4N PRO(実際の聴こえ方に近づけるため4チャンネル録音を採用)

撮影場所→払沢の滝(東京都西多摩郡檜原村本宿)

撮影日時:2019年12月9日(月)12:00頃

量的調査を採用。Googleアンケートフォームを用い、58人(男性35名、女性23名)を対象にしました。各素材における心理的作用の平均値を比較するため、検定にはt検定を用いました。

アンケートの分析結果

アンケート調査に用いた各映像素材一覧は以下の通りです。

素材1:テレビのホワイトノイズの映像と滝の音

素材2:滝の映像とテレビのホワイトノイズの音

素材3:カモフラージュのため、無関係の列車の映像と音

素材4:テレビのホワイトノイズの映像とテレビのホワイトノイズの音

素材5:滝の映像と滝の音

☆映像の違いによる心理的作用の比較

[素材1と素材5の比較]

「リラックスする感覚はありましたか。」に対する回答

リラックス感1と5

リラックス感の差異についてt検定を行った結果、p=1.27592*10^-6(p<0.05)となったため、有意水準5%で有意差が認められました。

「なんの音でしたか。」に対する回答

テレビ×滝

滝×滝

[素材2と素材4の比較]

「リラックスする感覚はありましたか。」に対する回答

リラックス感2と4

リラックス感の差異についてt検定を行った結果、p=2.06666*10^-12
(p<0.05)となったため、有意水準5%で有意差が認められました。

「なんの音でしたか。」に対する回答

滝の映像×テレビの音

テレビ×テレビ

素材1と素材5は同じ滝の音を、素材2と素材4は同じテレビのホワイトノイズの音を使用したにも関わらず、映像が異なることによってリラックス感において有意な差が認められました。また、音の識別においても映像に影響を受けているという結果が得られました。

☆音の違いによる心理的作用の比較

[素材1と素材4の比較]

「リラックスする感覚はありましたか。」に対する回答

リラックス感1と4

リラックス感の差異についてt検定を行った結果、p=0.122281929
(p≧0.05)となったため、有意水準5%で有意差が認められませんでした。

「なんの音でしたか。」に対する回答

テレビ×滝

テレビ×テレビ

[素材2と素材5の比較]

「リラックスする感覚はありましたか。」に対する回答

リラックス感2と5

リラックス感の差異についてt検定を行った結果、p=0.194334396
(p≧0.05)となったため、有意水準5%で有意差が認められませんでした。

「なんの音でしたか。」に対する回答

滝の映像×テレビの音

滝×滝

素材1と素材4は同じテレビのホワイトノイズの映像を、素材2と素材5は同じ滝の映像を使用しました。しかし、映像の違いによる比較をした際とは異なり、リラックス感において有意な差は認められませんでした。また、音の識別においては、実際には音が異なるにも関わらず、大きな差異は認められませんでした。

結論

映像による視覚刺激の違いから、リラックス感に有意な差が認められました。また、音の識別においても、映像の影響が認められました。一方、音のみが異なる素材同士を比較しても、有意な差は認められませんでした。

考察

以上の結果から、ASMR現象は視覚刺激と聴覚刺激の相乗効果から引き起こされている可能性が示唆されました。また、その要因としては、映像の持つリラックス効果の大きさや、視覚情報が音の識別に影響しているが故の先入観とリラックス効果への期待が推測されますが、その検証には至りませんでした。これらについては、今後の研究の課題としていきたいと思います。

参考文献

[1]本田学「感性的質感認知への脳科学的アプローチ」(2012)

[2]Emma L. Barratt, Nick J. Davis「Autonomous Sensory Meridian   Response (ASMR):a flow-like mental state」(2015)

[3]宮崎葉月、南澤孝太「ASMRに基づく身体に影響を及ぼす音楽作品の制作」(2017.3)

[4]ヴァルター・ギーゼラー著 佐野光司訳「20世紀の作曲:現代音楽の理論的展望」音楽之友社(1988.6)

[5]David Sonnenschein D.[ Sound Design : The expressive power of music, voice, and sound effects in cinema.」Michael Wiese Pzwzroductions(2001)

アンケート項目

各素材に対し以下の設問を設けました。

1.なんの音でしたか。

2.音との距離感はどうでしたか。

3.音の高さはどうでしたか。

4ゾクゾクしましたか。

5.ソワソワしましたか。

6.リラックスする感覚はありましたか。

また、フェイスシートとして以下の設問を設けました。

1.性別を教えてください。

2.あなたの年齢を教えてください。

3.ASMRについて知っていますか。

4.3で「知っている」と回答した方にお尋ねします。次の中から、ASMR効果があると思うものを選択してください。(複数回答可)

選択肢:咀嚼音、川のせせらぎ、スライムを使った音、海の音、耳かき音、葉っぱを踏む音、ささやき声、滝の音、水を注ぐ音、氷の音、炭酸水を注ぐ音、焚火の音、タップ音(爪や指で物を叩く音)、その他

※設問3、4については、素材を視聴する上で先入観を与えないため、アンケートの最後に設置しました。

映像素材

素材1:https://youtu.be/Gps9xy1j2Jc

素材2:https://youtu.be/5whIRzNRfJE

素材3:https://youtu.be/YcYCAG9lkwg

素材4:https://youtu.be/bz-j67EIrgM

素材5:https://youtu.be/0ntHZc0J9bA

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