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『夕暮まで』 吉行淳之介原作で桃井かおりが主演。アンニュイなのは当然。ラスト近くの駅のシーンが秀逸。

評価 ☆



あらすじ
中年男性作家である佐々は、とある出版パーティーで杉子という若い女性と知り合う。彼女に興味を持った佐々は食事に誘った。食べることが大好きでな杉子は、次第に毎週土曜日にふたりで食事をすることになる。寿司やフランス料理、中華料理などを食べ歩くようになった。



あまり観たひとがいないらしい。1980年公開で、監督は黒木和雄。出演は伊丹十三、桃井かおりなど。原作は吉行淳之介。中年男性と20代前半の女性の不倫劇である。吉行淳之介の小説は全体的に気だるいし、桃井かおりもその存在自体がやっぱり気だるかった。だから『夕暮まで』がアクション映画的な緊張などあるはずもなく、しっかりと気だるい感じで作られている。



映画レビューを読んでもあんまりパッとしない。どこかで伊丹十三のインタビューを読んだけど、これもパッとしなかった。でも、映画にはしっかり空気がありました。



僕はこの映画を二度も観ている。といっても意図的ではなくて当時名画座でこの『夕暮まで』と自分が観たい映画が二本立てだったというきっかけだった。しかし、途中で退席することもできたのだが、なんでだろう。自分でも変なんだけど、この映画にはとてつものない“何か”が写っている気がして仕方なかった。その“何か”が何なのか? 当時はわからなかった。



黒木和雄監督のラスト近くの駅のシーンが妙に印象に残っている。夕暮に点滅する赤い光。そのカットが心に刻まれる。「ストーリーなんていいじゃないか、映画なんて最後に残るのはひとつのカットなんだから」と黒木和雄に言われている気がした。




ストーリーは映画的ではない。なぜか処女であることにこだわるけれど、それ以外のプレイならなんでもする若い女性。人生に疲れた中年男性のお話。いろんなプレイの話も出てくる。当時は興味がなかった(いまもさほど興味があるわけではない)。でも、そんな退屈な話で、ちゃんと記憶に奥深く刻むことができる作品を作り上げる黒木監督はやはりすごいのでは?



こういう奇妙とも言える路線の映画は、邦画の方がいい。映画だけじゃなくて、文学だってそうかもしれない。川端康成なんてまさに「何も事件の起こらない」話を延々と書いている。



その意味でも、この映画は日本っぽい。しかし、日本的な大人の映画も廃れてきた。映画の原作といえばマンガやアニメばかり。もう十分でしょう。そういうの。



初出 「西参道シネマブログ」 2006-06-19

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