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外国人ビザ専門の行政書士と通訳が明かす、申請業務の舞台裏と想い

中小企業の課題解決と改善をチームでサポートする経営コンサルティングファーム・税経センターグループ。特長のひとつは、同じフロアで税理士・社労士・司法書士などの士業が揃って働いていることです。

そしてグループには中国人スタッフが1名在籍しています。外国人材の活躍が増えているなかで、士業事務所で雇用しているのは珍しいことだと思います。今回の記事で取り上げるのは、グループ内の行政書士部門・あさひ法務のスタッフ2名。なぜ外国人ビザ(在留資格)業務に取り組んでいるのか、なぜ通訳スタッフを雇用しているのか、気になる点を直撃しました。

SNSも駆使して、主に中国の方からの依頼に対応している2人が、日々どんな業務を、どんな想いでしているのか具体的に聞いてきました。分かりやすく話してくれたので、「行政書士ってどんなことをしているのかよく分からない」という方も、ぜひ安心して読み進めてくださいね。


行政書士・花井 孝之(写真右)
2017年入社。建設業・産廃・医療法人などさまざまな許認可業務の経験を経て、2019年からは外国人ビザなどの国際業務専任となる。趣味は、旅行とお酒と講談・浪曲。

中国語通訳・顧 春芳(写真左)
中国・吉林省出身。日本在留17年目。あさひ法務では、中国語の通訳・翻訳を担当。松戸市のボランティアとして、中国籍児童の学習支援や中国語教室のサポートなどにも注力。

SNSを活用して情報発信も。主に中国人のビザ取得をサポート

ーーはじめに、あさひ法務の紹介からお願いします。

花井:行政書士法人あさひ法務は千葉県柏市にある、千葉県で最初に法人登録した行政書士事務所です。行政書士は個人事務所が多いのですが、私達はチーム(法人)でお客様をサポートしています。

行政書士業務の柱は、
・建設業許認可申請
・外国人在留資格変更許可申請
・相続に関する業務
の3つと一般的に言われています。

あさひ法務は2004年に法人設立以来、建設業許可を得意として事務所を拡大してきました。昨今の人手不足や国際化の時流の変化によって、この中の外国人に関する業務の相談・依頼が増えてきました。お客様の多面的要望に応えるために、そして事務所としての対応力向上のためにも、2019年から私が外国人関連業務の専任担当となりました。

ーー顧さんがあさひ法務で通訳業務を始めたのは2023年1月ですね。どんな経緯だったのですか。

顧:通訳を募集していることを知ったのは、中国語のSNSである「WeChat」(LINEのようなアプリ)のグループです。行政書士事務所の仕事は分からなかったけれど、チャレンジしてみようと思って応募しました。

花井:以前は別の通訳の方がいたのですが、帰国することになり新しい通訳の方を探すことにしました。近くに住んでいる方を採用したかったので、懇意にしている松戸の中国料理店に相談しました。社長はすぐにWeChatに情報を流してくれて、即日連絡をくれたのが顧さんです。中国の方はスピーディーで驚きます。

ーーお二人の業務内容を教えてください。

花井:中国のお客様からの相談に、二人で対応することがほとんどです。相談の連絡は、以前依頼されたお客様からの紹介が4割ほど。中国版のInstagramと言われる「小紅書」での記事を見た方からの問合せも多くあります。小紅書は、中国の方が広く情報交換に使っているアプリ。ビザのことで困っている人が情報収集して、そのまま問合せしてくれるケースも多いので、事務所では積極的に活用しています。

顧:問い合わせにはWeChatから中国語で返信して、面談の日時を決めます。対面で会うことで得られる情報はかなり多いからという花老師(中国語で花井先生の意味)の想いで、できるだけ柏の事務所まで来ていただくように伝えていますが、遠くの方とはオンライン(ビデオ通話など)でお話することも多いです。

花井:問合せは日本国内と中国在住の両方からあるので、お会いするのが難しい方もいます。先ほども、台湾の方から熊本での会社設立に関するご相談がありました。現在、2割ほどは国外からのお問合せですね。

顧:花老師は、無料相談でもすごく親切です。初回の相談から有料にしている行政書士事務所もあるけれど、先生は無料で丁寧に答えてくれます。相談からすべてご依頼につながる訳ではないけれど、相談をした方にはいいイメージが残ると思います。

ーー行政書士の事務所で、外国人の方向けにSNSを使って情報発信しているとは思わない方も多いと思います。発信活動は、どのような経緯で始めたのですか。

花井:2019年に外国人向けの業務に力を入れると決まったとき、お客様を集める手段の一つとして始めたのがSNSでの発信でした。当初はどうしたらよいかまったく分からず困っていたので、中華料理屋や中国物産店、日本語学校に足を運ぶなど、中国の方がいそうな場所には飛び込み営業をして話をすることから始めました。すべてが手探りでしたね。

集客に関しては苦労しましたが、これまでの積み重ねにより、ようやく安定してきました。ビザが許可されると信頼され、評判につながります。また外国人は横のネットワークが強いです。お客様からの口コミで、同じように困っている知り合いの方をご紹介いただいています。ありがたいですね。

ビザは外国人にとって命と同等。理由書作成は、審査の要点の書き方にこだわる

ーービザの取得の手続きは、行政書士に依頼せずともできるものですよね。

花井:はい、ビザの手続き自体は自分でできます。ですので、相談をしてくるのには特別な理由があることが多いです。手続きがよく分からないから任せたいという方はもちろんですが、留学生だけど出席率が悪い、結婚に問題があるなど、丁寧な説明がないと入管審査に通りにくい方は行政書士に相談することが多いです。

顧:外国人にとってビザは、命と同じくらい大事です。ビザが取れなければ、日本にいられなくなってしまいます。
私は日本に住んで17年目なのですが、まだ永住権をもっていません。義理の父が病気を患っているので、私の主人はしばらく中国に帰りたいと思ったけれどできませんでした。日本に在留して10年以上でなければ永住権の申請ができないのですが(注・就労ビザの場合)、中国に半年以上戻ると、在留歴がリセットされてしまうからです。日本に戻ってきてからまた新たに10年過ごさないと永住権が取れないと思うと、帰国することも悩んでしまいます。

花井:顧さんのようにビザのために人生が決められてしまうケースも多く見られます。外国人の方は、働く、結婚するなど、何かしら人生の選択をするときにはビザが必要になります。状況は人それぞれですが、よくお伝えしているのは「まずはご自分が希望する選択を教えてください。その上でビザのことは専門家である私がどうすればいいか提案します」ということです。本来ビザがどうこうより、ご自身の気持ちの方が優先順位は上のはずです。でもビザによって日本での選択が決まるのが、外国人にとって悩みであり、不安に感じる点です。その大事な局面に寄り添い、外国人本人と一緒に悩みながらも解決するのが、私の仕事です。

ーー外国人の方にとって心強いお話だと感じました。申請のサポートをする際に、花井先生がこだわっていることは何ですか。

花井:理由書の作成にはこだわっていますね。申請時、必ず必要なものではない自由形式の書類ですが、許可をとりやすくするのに一番影響があるものと考えています。外国人の申請サポートを行っている行政書士はたくさんいますし、中には中国人行政書士もいます。たくさんいる行政書士の中から私を選んでいただけるのは、理由書の差が大きいのではないかと思っています。決まった形式のある書類ではないので、簡易に済ませることもできてしまいます。専門家としての能力や経験の差が出やすい部分ですね。

私が常に心がけているのは、審査する側の視点から考えて要点を取捨選択することです。内部の審査要領を読み込み、担当者がどのような点を審査するのかに注意します。お客様にとってプラスになる部分はもっと強調して、マイナスになる部分は説明を加えることでなるべくリカバリーをします。審査をする人が安心して許可を出せる材料を揃えて提出するのが、専門家として大事なことです。

「誰かのために、何かをしたい」直接喜んでもらえるのが一番のやりがい

顧:花老師の申請書類の作り方は、一緒に仕事していてとても勉強になります。私の永住権の申請は、主人に任せっきりでしたし、自分たちで書類を作らなければならないものだと思っていました。その結果は、不許可でした。行政書士という専門家がいるともっと早く知って、アドバイスを貰っていればよかったと思っています。いま花老師のサポートを受けて、再申請しました。結果が待ち遠しいです!

あさひ法務で働くようになってから、同じように中国出身で日本に在留している方でも、人生は人によって本当にいろいろなんだとよく感じます。困ったときには花老師のように相談に乗ってくれる人がいるのが、外国人には心強いです。だから行政書士の存在を、皆さんにもっと知ってほしいです。

花井:初回のご面談のあと、リーガルチェックを行いビザ取得が可能かどうかをお伝えするのですが、残念ながらビザ取得は難しいというケースもあります。行政書士法第十一条に「正当な事由がある場合でなければ、依頼を拒むことができない」と謳われていることもあり、不許可になることをご理解いただいた上でご依頼いただくこともありますし、契約に至らずに終えることもあります。

先日、ご相談の結果、帰国するしかない留学生がいました。日本に残りたいという希望を叶えてさしあげることはできなかったのですが、「(花老師が)親切に対応してくれたことが、私の帰国前の思い出として、日本の印象を美しく彩ってくれました。ありがとうございました」というメッセージをいただきました。専門家として、そして困っている人の身近な存在として、自分にできることはやってあげたいという気持ちを改めて感じました。

外国人を相手にしているということもあり、正直、いい話ばかりではありません。厳しいお言葉を受けて、辛い思いをすることもあります。不許可になることも多いので、お客様の落胆した姿を見て心が痛くなることも多いです。それでも喜んでもらえる姿を直接見られるのが、この仕事の一番のやりがいです。私自身は入社した時には現在の仕事を想像もしていなかったです。担当になってから中国の方とたくさん関わり、食や文化に触れて、自分の視野が広がっています。これからも依頼してくださる方の喜びにつながる仕事ができるよう、顧さんと一緒に力を尽くしたいですね。

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