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粉ふるいは今日で終わり

 今日の凶行に備えて早起きした俺は、作業場でさっそく愛用の金柄杓を精魂込めて磨き始めた。今日初めて小麦粉と脱脂粉乳とグラニュー糖以外のものにまみれることになるが……許しておくれよハニー。

 俺が作業場の上司の頭を金柄杓でどつき殺すことに決めた切っ掛けはなんだったろうか。いつも通りの大声の説教が妙に耳に残ったからか。それとも奴の顔のイボが気色悪かったからか。

 「よう、元気か鈴木」

 いつものダミ声が聞こえた瞬間、俺は金柄杓を振り上げた。

「おう、用意がいいな。じゃあ行こうか」

「…………は?」

「なんだ、新聞読んでないのか。部門閉鎖でオレら首だ。だから人事も経営も全員ブッ殺しに行こうぜ」

 梅沢はふるい機の蓋を高々と掲げた。小さめのテーブルほどもあるそれは、キャプテン・アメリカの盾のようにぴったりとおさまった。そして、もう片腕には生地を混ぜるための長柄杓。俺の金柄杓の4倍の長さだ。殴りつけたタンクがひしゃげた。

(続く)

 


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