魔曲
今はこの聖別された蝋燭が私を守ってくれている。替えはない。この頼りない灯りが消える前に事の顛末を記そう。
私は楽師ハンス。楽聖と謳われたマヌエルの系統を引くラバーブ弾きである。
我が師ガルテリオは、今際の際、私に遺言を残した。
「ハンスよ。私の唯一の心残りは、我が楽派の祖マヌエルが音楽の天使から伝えられたという楽譜をこの目で見ずに死ぬことだ。彼は最後にイベリアのヒラルダという街を訪れたという。そこに手掛かりがあるかもしれない。もし楽譜が見つかれば、どうか私の墓に供えてくれまいか」
私は涙ながらに師へ誓い、ヒラルダへと赴いた。だが、それが過ちだったのだ。ああ、音楽の天使……いや、音楽の魔よ。
私がヒラルダの街へと辿り着いた時、街はお祭り騒ぎだった。ムーア人の支配からこの街が奪還され、正統な王の掌に戻って5年。
特に話題になっていたのは、過去の教会で使われていたらしい巨大な鐘が発見されたことだった。
(続く)
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