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おかしな狩人狩り

 こうして薬指を切り落とされる羽目になったからには、何とか逆噴射小説大賞に勝ち残りたいものですね。
 R・E・A・Lさを追求しろでしたっけ?それで何か、人目を惹くような経験ができないものかと思ってたんですよ。
 そうしたらですね、お菓子工場に勤めていた時の先輩に呼ばれたので、話を伺ったんです。
「女房が逃げたから手伝え」
「さいですか」

「奴は母方の爺さん婆さんが住んでる所に隠れたらしい」
「にしちゃ、遠いですね」
「いわゆる限界集落ってやつだ」
 運転席の外側はもう草深い山奥で、曲がりくねった傾斜の激しい山道を暗闇の中で車転がすのは、実に骨が折れました。
「駐在とかは居るんですか?」
「一応居るみたいだが、オレら二人ならどうとでもなるだろ」
「そうですねえ」
 お菓子工場の苦役で鍛え上げられた先輩の右腕は、下手な体力自慢のモノよりも遥かに太く隆起しています。先輩は握った作業用の鎚の調子を確かめていました。
「もうそろそろ集落に付く。ライト消しとけ」

「そんじゃ行きますよ」
「おう」
 お菓子工場の廃品の台車を組み上げた我々は、全力で家屋に突撃しました。台車には鉄杭が括り付けられ、簡易破城槌として申し分のない代物です。いやあ、木造家屋にぶっつかった時の爽快な音色は、確かに足を運んだ甲斐がある代物でしたよ。
 破壊された壁は、先輩が鎚で手早く広げたんで、私達がお邪魔するのは正味一分もかかりませんでした。
「爺さん婆さんは、できればじっとしておいて欲しいですねえ」
「……碌に畑も作れない山奥の集落で、皆、何して暮らしてると思う」
 私が先輩に答えようとした瞬間、バケツをぶっ叩いたような音と閃光が前から襲い掛かりました。ライフルだったら流石に終わってましたね。
 とはいえ、私が粉ふるい器の鉄蓋を得物にしてなければ、怪我は免れなかったでしょう。慌てて鉄蓋を盾に走って強引に殴り倒しましたが、音は誤魔化せないので、タイムアタックスタートです。

(続く)

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