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恋人と私

 3年付き合っている恋人がいる。

 恋人は、芯が通っていて真っ直ぐだ。怠惰な私とは真逆だと言っていいほど、努力家で責任感も強い。それでいて、とっても優しくて繊細で少し不器用で可愛らしい人だ。

 恋人とは地方大学で出会った。初めて会ったときの恋人はとにかく暗くて、なのに目に鋭い光を宿していたので、絶対に仲良くなれないと思っていた。

 最初の印象こそ良くなかったものの、私たちが打ち解けるまでにそう時間はかからなかった。彼はいわゆる変わった人で、今まで私が出会ったことのないような感性の持ち主だった。

 彼のする話は、毒があるけどどこか陰を感じさせるもので、興味が湧いて仕方なかった。気付けば、もっとこの人の話が聞きたい、この人のことを知りたいと強く思っていた。

 まず手始めに私の知らない音楽をたくさん知っている彼におすすめの曲を聞いてみた。すると全く知らないバンドやアーティストのURLがずらり、12曲ほどが解説付きで送られてきて、音楽を愛す彼が、一曲一曲を大切に選んでくれたことが分かった。私は当時何かと病んでいたので、病んだ時に聴く曲ある?といった文面を送った気がする。そんな要望に合わせて彼がセレクトしてくれたプレイリストは、今でも私の大きな支えになっている。

 失礼ながらその時は、思ったよりも丁寧な人なのだな、と思った。出会ったばかりの素性も知らない私に、しかも他人にあまり興味がない(ように見えた)彼がここまでしてくれたのは、親切心かはたまた気まぐれなのか全く読めなくて、余計に興味が湧いた。

 私は育ちの関係もあって、多くの人間と関わってきていたから、少し話せばどんな人物か大体は把握できる方だと自負していた。だから、こんなに掴めない人は正直初めてだった。単純に興味と意地に加えて、目を離したらすぐに消えてしまいそうな彼がなんだかほっとけなくて、何かと理由をつけては彼との接触を試みていた気がする。

 なんでも話せる仲になる頃には、実は似たもの同士だということにお互いが気付いていた。前世は双子なんじゃないか?なんて冗談まで交わすようになっていた。

 毎日連絡を取り、朝を迎えた。真冬の夜にピクニックをして凍えながらも話した。泣きじゃくって彼をコメダ珈琲に呼び出すこともあった。彼は必ず来てくれたし、必ず受け止めてくれた。誰にも話せなかった過去も彼には全て話せたし、彼もまた、誰にも言えなかったことを私にぽつりぽつりと話してくれた。

 そんな彼の優しさに甘えて、私は駄目になっていた。誰よりも幸せになってほしいと口では言いながら、彼が幸せになって私の存在が必要なくなることを1番に恐れていた。心の底ではずっと一緒に不幸を噛み締めていたかった。そうしてでも、彼を繋ぎ止めていたかったのだと思う。

 私は勝手に幸せになろうとしたけれど、彼はそんな私に何も言わなかったし、結局私は何にもなれなかった。自分自身は踏み切れないくせに、彼に必要として欲しくて、私のことを好きになればいいのに、私のことを好きになれば幸せになれるのに、と歪んだ感情を持っていた。自分が一番、彼を必要としていたのにそれに気付かないフリをしていた。

 彼はずっと待ってくれていた。私のことを第一に思って、自分の感情を押し殺してまでそばにいてくれた。彼は愛情深い人だけど、そこまで強くはない。そんなこと、他の誰よりも分かっていたはずなのに、私はずっと彼の優しさに漬け込んで、わがまま放題で彼を振り回してしまっていた。

 何よりも、彼を失うことが一番怖かった。恋人という不確定な関係よりも、彼にとって1番の理解者という不透明な存在でいたほうが、ずっと一緒にいられるんじゃないかと狡いことを考えていた。

 でも彼が、私以外と幸せになるのなんて嫌だ。私が彼を幸せにしたいし、私も彼に救われたいんだ。そう気付くまでに時間はかかったが、やっと彼とも自分ともきちんと向き合うことができた。そして彼とは晴れて恋人同士になった。

 私は、お互いがお互いに依存してしまって、関係が壊れてしまうことを一番恐れていた。それくらい、私も彼も脆かったから。けれど彼と付き合ってから待っていたのは、驚くほど穏やかな日々だった。

 恋人になる前は、互いが互いを暗い方へ暗い方へ引き摺り込んでは、2人で闇に堕ちていく、そんな感覚だったが、恋人がくれるまっすぐな愛情に、いつも私を支配していた不安や懐疑心は溶けてなくなった。

 恋人と過ごす日々は、穏やかで何も怖くないけれど、刺激的だ。彼との日常は、出会ったことのない感情をいつも教えてくれる。誰かを愛することがこんなに楽しいことだなんて私は知らなかった。知る由もなかった。

 幸せだ。こうして最愛の恋人と生きている今が、とてもとても嬉しくて、愛おしい。


#日常 #日記 #エッセイ #恋人 #恋愛エッセイ

 この記事は恋人の許可なく書いていますがお許しください。noteを始めることを薦めてくれた恋人にとても感謝しています。これを読んで何か訂正箇所があれば、教えてください。いつも私のnoteを読んでくれてありがとう。

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