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初めての味は、ミックスジュース

「彼女っていいぞ、おいナオトは誰か好きな奴いないのかよ。」
と友だちにそそのかされて、告った中3の夏。
「ごめん。沢風くんのことはそんなに風に見れない。」
と見事にフラれてしまった思い出。正直、あの頃は、好きという感情がまだなく、友だちにあおられて告白しただけ。見事な友だちのネタになり、みんなで笑ったのを覚えている。
 正直、自分でもあまりにも恥ずかしかったことしか覚えていない…

 そんな俺も高校に入り、学校生活や部活にも慣れ、落ち着いてきた2年の春。
「おはよう!」
「おーナオト、おはよう。」
「これ見てみろよ。」
と見せられたのは、手のひらに収まるくらいの機械。
「なにそれ?新型のウォークマン?」
「バカ、お前はポケペルも知らないのか?!」
と言われ、はてなマークの目をした俺に、ユウスケは言った。
「これはな、女の子と連絡をとったり、女の子と出会ったりするための、最強ツールよ!」
ユウスケは、いつも最新のものを求めてる友だち。実際にg.zしか知らない俺に、牧田ヒカリの『オートマティック』を教えてくれたのもユウスケだった。
「んで、彼女とかできたのかよ」
「うん。いるよ!」
「女クラのMちゃん。」
こいつは、いつの間に彼女を作っていたのだ…
「えっ!いつから?」
「言っただろ、冬休み入る前に告られた。って。」
おいおい、まさかあの、生徒会のアイドル的な存在のMちゃんなのかと…
「いや、聞いてたけどまさか付き合うとは…」
「まっ!ナオトもポケベル早めに手に入れといたほうがいいぜ!」
「あっっあ~、そうだな。」
そんなこんなで、授業が終わり部活の時間になった。

「今日は、ここまで!集合!!」
「今週の日曜日に、練習試合をすることになった。朝、早いから遅刻するなよ!」
とコーチが伝えると、仲のいいケンジが
「げっデートの約束してたのに。コーチいつも急なんだよな。」
「デートって、彼女とか?」
「映画に誘われててさ。まっしょうがねーよな。」
ケンジは、モテる男で一年の夏合宿が終わった時に、
「いい加減、スポーツ刈りなんてやめろよ。」
「ナオトだって、彼女欲しいだろ?!」
とアドバイスをくれた友だちだ。それまでの俺は、ずっとスポーツ刈りの短髪だった。おかげでついたあだ名は、ゴリ。まっ言われてもしょうがない体格と輪郭はしてたから、笑いのネタになってやってたが、そのアドバイスからは、刈上げとテクノカットをやめ、2年になってからは、爽やかショートヘアーにしたのだった。

「なあ、彼女ってどうしたらできる?」
練習試合の帰りにバスの中で、ケンジとタケルに相談してみた。
「おっなになに?!なんか進展あったの?」
「いや、俺さ中3の時にフラレてから、なんかトラウマで…」
「ナオトって、ホント真面目だよな〜」
そう、自分でいうのは嫌だけど、実は真面目で、不器用で、努力家。1年の夏に部活の先輩に
「お前、3年間補欠決まりだな。マネージャーにでもなれば!」
と言われ、みんなが帰ってから、自主連して今ではレギュラーメンバー。初めは、みんなで寄り道してラーメンを食べて帰ることも、拒んでたくらい。そんな俺は、こいつらのおかげで少しずつ垢抜けてきた。けど、あの時に言われた台詞が頭から離れず、恋話からは、遠ざけていたのだ。
「とりあえずさ、難しく考えずに、少しでも好きな女の子にアタックしてみればいいじゃん。」
「いないのかよ?」

「実は〜」
「え〜!バカめっちゃチャンスやん!」
と彼らに話した内容は、去年の秋に3年生の最後の試合になったある日のこと。

「おい、いつまでも泣くな!これが結果なんだ!気持ち切り替えるぞ!」
俺の高校は、冬の全国大会に向けての予選を勝ち上がり、この試合に勝てば決勝というところまできていたが、最後の最後に大逆転をくらい、ここで先輩たちの青春が終わった。その中で、俺は1年でサポート業務をしていた。ある日、球技場の隣にある武道館から出てきた、中学生が目の前で転び、膝を擦りむいてしまったのだ。
「大丈夫?」
「血が出てる。ちょっと待って!」
と俺は、メディカルバックから消毒液とカットバンを出して、手当をしてあげた。
「あんまり、急がないで気をつけて帰りなよ。」
「ありがとうございました…」
と言われ、帰って行った彼女は、1つ下のゆき。
なぜ名前を知っているかと言うと、その次の日も試合はなかったが、会場設営やボールボーイ、閉会式まで、学校ではなく試合会場で過ごした。
 彼女も、中学の大会が武道館で行われていて、毎日のように来ていたようだった。
「あの〜!!」
と誰かに声を掛けられ振り向くと、彼女がいた。
「あれ、この間の?」
「この間は、ありがとうございました。」
「怪我、大丈夫?」
「全然、大丈夫ですよ。あの時は、ちょっと痛かったけど…」
「失礼ですが、名前聞いてもいいですか?」
「あっ俺?」
と名前を聞かれて、少し心臓がドキって動いたのが微かに感じた。
「俺は、法理付属の1年ナオト」
「私は、西南中のゆき、3年です。」
「あっゆきさんも、なにかの試合に出てたんですか?」
「違いますよ、友だちの応援です。」
とショートカットがすごく似合う、笑顔のかわいいゆきだった。
 そのあとは、少し話をしてお互いそれっきり。

「てなわけ…」
俺は、今の事をケンジたちに話した。あれから1年経って、彼女は、高校生。でも、どこの高校かもわからないし、わかるのは西南中のゆきだけ。この子とどうにかなるなんては、思ってもなかったのだが、
「お前、今西南中って言ったよな。俺のクラスに西南中のやついるから、聞いといてやるよ。」
「えっいいよ…」
「だって、可愛かったんだろう。チャンスだよ!チャンス!」
 本当に、ケンジはすごく優しいやつ。だから、モテるのかもしれない。

 それから3日後、
「おーい、ナオト。わかったぜ。」
「えっ本当に?」
「なんか学校でも、結構可愛いくて、有名だったみたいだから、すぐにわかった。しかも、高校も俺の彼女と同じで、聞いたら知ってるってさ。」
「まじで!すげー偶然!それで高校は?」
「ここからは、ラーメン屋でな。」
「タケル、今からナオトとラーメン食べてから帰るけど、お前どうする?」
「わりぃ、俺、今日彼女と待ち合わせしてるから。バーイ!」
「オッケー!」
 その後、ラーメンを食べながらいろいろ聞くと、どうやら木洋高校という女子校に通っているらしい。しかも、ケンジの彼女の後輩の友だちということだ。そこから、いろいろと話をすすめていき、会わせてもらう手配までしてもらったのだった。

ブルブル!!
「オハヨウ♡」
高校2年の夏に俺は、初めての彼女ができた。しかも、ちゃっかりポケベルも買って今では、初彼女と毎日ウキウキしながら、連絡をとりあっていた。
「ナオトがベルを買って、彼女とラブラブだとはな〜」
「いいじゃんか。べつに。」
「そんで、どこまでいったの?A?B?」
「なにそれ?」
ユウスケは、突然とまた俺の知らない言葉を口にしてくる。本当に、最先端をいってるのか、俺が知らなすぎなのか…

「えっ〜なら手も繋いてないってこと?」
「それってやばくない?」
「いや、今日クラスの友だちにも同じことを言われた。」
 俺は、部活の帰りにケンジにも同じことを聞かれて、このやりとり。心の中では、xとyの計算式を初めて解かされたときのような、困惑があった。
「だって、どうしたらいいのかわからないし。」
「1回もそんな経験ないから…しょうがないじゃん…」
「まっそっか。ゆきちゃんは、なんか言ってこない?てかどんなデートしてるの?」
「学校帰りに、一緒に帰って公園でブランコに乗って話をするくらいかな。」
「それだけ?中学生かよ!」
「だって!」
「わかったよ!そう怒るなって。」
 本当の事だった。部活のない日に、一緒に帰り、途中にある公園で話をして帰る。彼女は、俺の日常の話でたくさん笑ってくれて、俺はそれだけで幸せだった。
「わかった!ちょっと渡したいものがある。今日、俺の家寄れる?」
「あ〜いいよ。」
とケンジの家に行って、受け取ったものは、『mot.dog』という雑誌。
「まっいいから家に帰って、読んで勉強しろよ。」
「あっ、わかった。」
「じゃーな、GOOD LUCK」
 なんてキザなやつだ。と思い、夜ふかしをしながら本を読み、AやBの意味、デート方法、初キスまでのシチュエーションと自然と眠れなくなるキーワードが目の前をよぎった。

「ごめん、遅くなって。」
今日は、学校帰りにゆきと帰る日。駅前のまち合わせ場所に着いた僕は、もう心臓がバクついていた。なぜなら、授業もお互いに早く終わり、少し長めの帰り道になるからだ。お互いに私立だということもあり、学校予定が重なることが多かったが、今まであまり意識したことなく、帰っていた。しかし、今日はちょっと違う。
「そういえばさ、今日ベル地下でジュースでも飲んで行かない?」
ベル地下とは、駅前にあったベルードウというデパートの地下でフードコートが高校生たちのデートスポットだった。
「いいよ。ゆき1回ナオトくんと行ってみたかったんだ。」
そうか、ゆきは今まで誘われるのを待っていたのか。
「俺は、ジンジャーエール。ゆ、ゆきちゃんは?」
「ミックスジュース。」
二人で座り、ジュースに手をかけると、周りは恋人たち。思わず、お互いに周りを見渡し、恥ずかしくなった…
「そういえば、この間のテストどうだった?」
「1つだけ、赤点…あと少しだったのにな〜」
「大丈夫だよ!俺なんて3つも赤点でめっちゃ担任に怒られたわ!」
と笑うと、
「そうやって、すぐに自分の事をネタにして励ましてくれるんだから。」
「ナオトくんって初めて会った時から、本当に優しいんだねって思うな。」
「そんなことはないけど…」
ゆきの微笑む顔が可愛くて、ジンジャーエールの甘さがより甘く感じてしまう時間だった。
 そうして、フードコートを出た俺たちは、プリクラを撮って、いつもの帰り道の公園に。
いつもは、ブランコを選ぶ俺だが、今日は、ベンチに座り、
「ねえ、このプリクラよく撮れてない?すごい好き。ゆき宝物にするね。」と言いながら、隣に座るゆきがいた。俺は、本に書いてあったシチュエーション通りにやろうとしたが、体が思うように動かず、何気なく30分が経ち、近くにいるカラスに、【カア〜カア〜】
と馬鹿にされているようだった。
 ちくしょーカラスめ!と思いながら、男なら決める時は、決めなければと真面目な顔している時に、ゆきが俺の顔を覗き込み、
「ねぇ、なに考えてた…?」
「んっ何でもないよ。。ほら、カラスうるさいなって思ってさ。」
「ナオトくん、ゆき、ナオトくんのこと大好きだよ。」
突然の台詞に、俺は、思わず彼女の左肩を抱き、そのまま唇と唇が触れ合う直前まで、もってきていた。
「俺も、ゆきちゃんのこと好きだよ…」
と言い、唇を交わした。いつも彼女がつけている、リップの香りがした。そして、その匂いを感じていると、口の中に彼女の舌が入り込み、ミックスジュースの香りへと変わっていった。初めての経験、香りに俺は、カラスの声どころか周りの音さえも聞こえなくなっていた。そうして、キスが終わるとお互いに見つめあい、
「なんだか、恥ずかしい…」
「あっあっー。」と言い、俺は思わずゆきのことをぎゅっと抱きしめた。
あたたかい…

 それから、俺はゆきと何度もデートをしたり、キスの経験からか、1つ大人になった気がしていた。それだけで満足だったのだ。ケンジの応援やユウスケの冷やかしもあったが、結局ゆきとは、kissだけで終わっていた。ある事がきっかけでゆきとは、別れる事に…

p.s
 
 いつまでもゆきは、待てなかったのだろう…
でも、俺もキス以上進めなかったのは、反省している。甘く切ない高2の夏だった…

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