見出し画像

発売から29年、今こそ語りたいB'z「いつかのメリークリスマス」

日本の代表的なクリスマスソングのひとつ。

B'zの代表曲って世間的には「ultra soul」になると思うんですが、正直ちょっとネタ曲感あるじゃないですか。いや普通に好きなんですけどね。

だからこそ、この「いつかのメリークリスマス」の存在ってB'zの歴史の中で一際輝いているというか。

そもそも、この曲ってシングルじゃないんですよ。
それがこんなポジションになっていること自体異様。

J-POP史上で考えても、シングル表題曲じゃない作品でこれだけ知名度がある曲って限られるでしょう。SMAPの「オレンジ」とかサザンの「希望の轍」とか、それぐらいじゃないか。

この曲がここまで語り継がれるようになった理由って、「日本人がイメージするクリスマス」をしっかり体現しているからだと思うんですよね。

「いつかのメリークリスマス」を凌ぐ知名度がありそうな日本のクリスマスソングといえば山下達郎の「クリスマス・イブ」とかback numberの「クリスマスソング」になると思うんですが、どれもがっつり失恋ソングですよね。

それに対して海外のクリスマスソングってマライヤ・キャリーの「恋人たちのクリスマス」とかジョン・レノンの「ハッピー・クリスマス」とか、比較的平和で明るい楽曲が多いわけですよ。
例外といえばワム!の「ラスト・クリスマス」ぐらいでしょうか。

「いつかのメリークリスマス」って、実にわかりやすく日本のクリスマスソングの王道を体現している。
「ultra soul」が盛り上げ曲、っていうのと同じぐらいわかり易い。
このわかりやすさ、共感し易い内容が世間に受けたんじゃないかなーと思うわけです。

ゆっくりと12月のあかりが灯りはじめ
慌ただしく踊る街を誰もが好きになる

この導入の歌詞から既に素晴らしい。
12月のあかりは”ゆっくりと”灯りはじめるわけです。
決してせかせかと灯り始めない。
この言い回しが秋口から冬に向かっていく時の流れを思い起こさせるし、”慌ただしく踊る街を誰もが好きになる”というクリスマスシーズンの多幸感も良いですよね。

ぼくは走り閉店まぎわ
君の欲しがった椅子を買った
荷物抱え電車のなか
ひとりで幸せだった

主人公がプレゼントに選んだ”椅子”というアイテム。
このチョイスが割と世間ではいじられがちなんですが、僕はすごく好きです。
指輪とかネックレスじゃないのが良いですよね。

まず、普通のプレゼントはもう渡してしまっているという彼女との距離感がわかりますよね。
多分、彼女への一発目のプレゼントに椅子を選ぶ人はあんまりいないでしょう。

そして、”椅子”というのは形が決まり切っていないですよね。
僕はこの曲を聴いてアンティーク調のお洒落な椅子を想像しましたが、別にそれが正解とは限らない。
スツールみたいなものかもしれないし、ロッキングチェアかもしれない。

ネックレスや指輪と違って色んなイメージを想起させてくれるので、リスナーの中にあるそれぞれの物語をより身近なものしてくれる感覚があります。

いつまでも 手をつないで
いられるような気がしていた
何もかもがきらめいて
がむしゃらに夢を追いかけた

サビの言い回しが過去形に終始しているのが一気に切なさを加速させる。
現在形で歌われていたBメロまでのストーリーは回想でした、というネタバラシをサビでしているわけですね。

歌いながら線路沿いを 家へと少し急いだ
ドアを開けた君はいそがしく
夕食を作っていた

2番の冒頭は、1番サビ前までで描かれたストーリーの続き。

誇らしげにプレゼントみせると
君は心から喜んで
その顔を見た僕もまた
素直に君を抱きしめた

“誇らしげ”にプレゼントを見せる主人公の可愛らしさや、夕食をつくって帰りを待っている彼女との関係性の深さが伝わってくる。

この部分、派手さはないが歌詞全体で見ると非常に大事な部分だ。
ここで主人公と彼女の関係性の深さ、幸せな日常を描写しておくことで後半部の物悲しさがより活きてくる。

君がいなくなることを
はじめて怖いと思った
人を愛するということに
気がついたいつかのメリークリスマス

2番のサビ。
この辺りで雲行きの悪さを匂わせるあたりがうまいですよね。

直後に続くギターソロは、アコギ一本というB'zには珍しい形。
サビメロをアレンジした松本の丁寧な演奏が心に刺さる。

部屋を染めるろうそくの灯を見ながら
離れることはないと
言った後で 急に僕は
何故だかわからず泣いた

ギターソロ後は、幸せな状況にもかかわらず主人公カップルの脳裏を過ぎる不穏さを描写。
この時点でなんとくなく二人とも別れが訪れることを予感していたのかなあ、という気もしますね。

この後最後のサビを挟み、曲は再びAメロへ。

立ち止まってる僕のそばを 誰かが足早に
通り過ぎる 荷物を抱え 幸せそうな顔で

メロディに呼応するように、物語も最初と似たシーンに戻る。
立ち止まってる主人公の傍を、かつての自分に似た人が通り過ぎていく描写。

足早に通り過ぎて行った人が自分に似た赤の他人なのか、それとも過去の自分の幻影なのか。
定かではないが、なんとも後を引くラストである。

稲葉の描く歌詞は、具体的にストーリーがあるものより抽象的な表現の方が多い。
特にこの「いつかのメリークリスマス」のように頭からお尻までちゃんと時系列が組み立てられており、具体的な場面描写がある曲は貴重。
B'zでは数少ないJ-POP王道ど真ん中の歌詞と言える。

その辺りも、アルバム曲らしからぬ人気の高さに寄与している要素なのかもしれない。

本当に名曲なので、聴いたことがない人はぜひ。


この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?