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中学時代の話③ 「英会話教師の裏の顔」

僕の通っていた中学は英語教育に力を入れており、驚くほど外国人の先生が多く在籍していた。多分10人以上いたんじゃないだろうか。

その中に、生徒に特に愛されている先生がいた。
仮に名前とトムとしよう。

トムは自分の顔を印刷したお金や新聞を作ってレジでのやりとりなんかを教えてくれるユニークな授業をする人だった。
人柄も明るく、同僚の先生たちからも愛される存在だ。

彼は学生時代から陸上をやっていたそうで、放課後は毎日外をランニングしていた。今考えたら先生たちの業務時間内に走っていた気がする。なんて自由な校風なんだ。

僕たちは、走る前に準備体操をするトムをよく見かけた。
決まって校舎の壁や柱に手をつきアキレス腱を伸ばしていた。

僕が2年生だったある日、僕が友達2人と下校しようと昇降口を出るとトムがまたしても校舎に手をつきストレッチをしていた。

友達の一人、野上くんが

「グッバイ、トム!」

と語りかけたので、僕らも挨拶しながら手を振った。
こちらに気付いたトムは何一つ曇りのない笑顔で、

「グッバイ!ボーイズ!」

と返してくれた。
僕らはトムの姿が見えなくなるまで手を振りながら校門に向かった。

「トムはいっつも陽気でいい人だよなあ」

野上くんが呟いた横で、もう一人の友人・金谷くんは神妙な顔をしていた。

「金谷、どうした?」

僕が聞くと、金谷くんは僕らに問いかけた。

「お前ら、トムが壁に手ついてアキレス腱伸ばす以外のストレッチしてるの見たことある?」

僕らと野上くんはしばらく考え、首を横に振った。
確かに、前屈や屈伸の運動を一回も見た記憶がない。

「おかしくないか?あんなに毎日走ってて、準備体操してる姿見てるのに」

まあ、言われてみれば変かもしれない。
僕らがトムを見かける頻度は結構なものだ。誇張抜きで多分一人百回は見ている。
それでも、あの動き以外誰も見たことないのだ。

「もしかして、何か別の目的があるのかも」

金谷くんが呟くと、野上くんが

「ゆっくり学校を動かそうとしてるんじゃない?」

と神妙な顔でボケてきた。
当時の僕らはそれが面白かったので爆笑した。
中学生は笑いの沸点が低いのである。

その時、信じられないことが起きた。

学校が揺れたのである。

地震だ。多分震度5くらいだった。
結構な揺れだったため全員の足が止まったほどだ。

程なくして揺れが収まり、僕らは顔を見合わせた。
そして、誰からともなく昇降口に向かって走り始めた。

そんなわけない。
今の地震とトム、因果関係があるわけないのだ。

校門を抜ける、すると。

トムが笑っていた。
周囲には誰もいないのに、大口を開けて。
狂気を感じるレベルの大爆笑だった。

僕らは踵を返し、再び下校することにした。
この日の出来事はなかったことにしよう。そう思いながら。


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