私の旅行記 -椅子張りが教えてくれた日々-(1)
いつか海外へ行くなら、暮らしてみたいと思っていた。
観光地を回るのではなく、少しの間だけでも現地の生活に紛れてみたい。
私は、そこへ向かう理由を探していた。
いざ、イギリスへ!
専門学校を卒業した2013年3月。
就職活動を少しばかりしてみたけれど、職人仕事、ここでまた下積みの忙しさに紛れてしまう前に、もっと今しか出来ないことがあるのではないか?
そう思い、イギリスの工房へ二か月間、椅子張りのワークショップに参加することを口実に海外旅行へ行くことにした。
大学を卒業して、舞台関係の仕事に就いていた私は、それこそまとまった休みが取れることなんてなく、海外旅行なんて夢のまた夢。
目の前のことだけでも必死だった。
転職しようと専門学校へ入り、そしてまもなく卒業。
「今、無職なんだ。」
そう思ったら、海外へ行くのは「今しかない!」と思った。
当時はまだFacebookが流行り出した初期。
FacebookのDMから、辞書を引きながらつたない英語で工房へ申し込みをした。
開業するために貯めていた資金を使って、私はイギリス、ケンダルへと旅立った。
生まれて初めて、自分で飛行機のチケットを予約した。
限りある資金に不安を覚えつつも、デンマークのコペンハーゲンで乗り換え、イギリス ヒースロー空港へ到着。
空港からタクシーに乗り、その日の宿泊先へ。
海外の宿泊先を予約するなんて、それも生まれて初めてのことだった。
空港ですぐにトイレへ行くと、同じ飛行機に乗っていたであろう方が、
「今の着陸は本当に上手だったよね!」
と興奮気味に話しかけてくる(もちろん英語で)。
本当に着陸が上手で、グッとくるような違和感もなく、耳がキーンとするようなこともなく、スーッと着陸したので、
「私もそう思った」
と言ったつもりだけど、きっと賛同していることは伝わったのだろう。
おばさんは満足そうに去って行った。
高校生の時の英語の偏差値は30。
そう聞けば、どんな状態でイギリスの地を踏んだかわかってもらえるだろう(汗)。
入国審査で2ヵ月滞在と言うと、
「2ヵ月も何するんだ?」と言われ、
「観光だ」と答えると、
「どこに泊まるのか?本当は働きに来たんじゃないのか?」
などと、なかなかゲートを通してもらえず、
「私は○○とういう会社に就職が決まってるんだ」と言って、最終的に後ろで、「もう帰る時間だぞ!」と声をかけられたらしく、
もう行っていいよ的な感じで、通してくれた。
何をきかれているのかはわかるけど、自分の言いたいことがうまく英語で言えないもどかしさ。今ならアプリで翻訳して言ってくれるのに。
就職も何も決まっていなかったけれど、結局帰ってきてから、その時伝えた会社に就職したので、嘘は言ってないよね。
空港を出た時点ですでに20時過ぎ。
迷っている時間はないので、タクシーを捕まえる。
予約したホテルに「遅れる」って言わなきゃ!と電話。
その時なんと言ったかは覚えていないけど、タクシーの中でほっとしたことは覚えている。
宿へ到着。
優しく迎えてくれたので、電話の内容は伝わっていたのだろうな。
国内旅行もままならない私が、はじめてインターネットで、しかも海外の宿を予約。
今じゃ当たり前のことだけれど、行ってみるまで、本当に予約が取れているのか不安だった。
アプリなんて聞きなれない、当時はまだガラケーが主流の時代だ。
前職の癖のせいか、最悪の事態を想像し、悪い事ばかり考えてしまっていた。
だまされたらどうしよう、
盗まれたらどうしよう、
悪い人に会ったらどうしよう・・・
降り立った地は普通だった。
そこには、そこに暮らす普通の人々の普通の生活の時間が流れていることに、私は驚きながらも、ホッとした。
そりゃそうだよね。
電車で、バスで、少し離れた県に行くように、
飛行機に乗って、少し離れた国に来た、そういうことだろう。
言葉が違う事、文化が違う事、容姿が違う事、
違いを数え上げればきりがないけど、生活している人がいるという事において、なんら違いはない。
緊張で上がっていた肩は少し下がって、ベッドにはいる。
「明日はケンダルへ向かうんだ。」
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