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異世界転生感ある王様ランキング

読みながら何度か泣いた。大人が泣く漫画。

なんで面白いんだろう?という分析。


ベースは異世界転生

血筋も良く、実は才能豊かな世界の救世主が主人公。その下克上。ハリーポッター系列です。

一見、分不相応な地位と才能を持っている主人公。本来の力はあるけれど、何かがその発露を邪魔している。

何かがズレれば、本来の力が爆発して、世界を救うんです。これ大枠では異世界転生でウケてる設定と共通してます。

でもこの設定って、作者の方が作った撒き餌みたいなものだと思うんです。漫画家としてのサービス精神。
エンタメ作品たるもの、これくらいのサービスは必要という。

本当に書きたいテーマは、主人公の下剋上ではないと思う。
主人公の周りを取り巻く大人たちが泣かせるんですわ、この作品は。作者の十日さんの一番に描きたいテーマ性は、こっちにあると邪推している。

夜空ノムコウと運命の赤い糸

別の角度から分析する。SMAPの名曲、夜空ノムコウ。あれから僕たちは誰かを信じてこれたかなぁ。

スガシカオ作詞。今でもいい大人はしみじみ歌う。
誰かを信じたり、信じられたりすることは、大人になればなるほど難しい。
他者を信じる前提に、自分を信じる勇気を持つ必要があるからだ。信じるとは決意の問題。それなしに何かを誰かを信じるのは理想の押し付けであり、究極的には無責任な態度になる。
たとえ誰かに裏切られても、自分にはきっと自分自身がそばにいるという根底の安心感。それなしには他者を信じられない。気がしている。

王様ランキングでは、週間少年ジャンプ作品群のように夢や可能性をでたらめに追いかけない。友情努力勝利を掲げない。むしろ主人公以外の大人たちは、しょっちゅう負けている。復活劇が用意されているわけでもない。

それでも生きていくということ。友情努力勝利的な夢をかつて見たことのある大人が、ある瞬間、人生ってそういう側面だけじゃないと気づく。あるいは気づきながら特に気もかけないようにして生活している。

人は多かれ少なかれ他者と共生して生きていく。すべての他者と全くのフラットな関係を持てる人はそういないと思う。少なくとも私自身はそうだ。他者には期待をする。憧れる。こうなりたいと思ったり、あるいは、こうはなるまいと思う。

そうした期待はいつか、他者への幻想につながる。埋まらない心の穴をいつか埋めてくれる人がどこかにいる。あるいは誰かの心の穴を埋めてあげられるかもしれない。運命の赤い糸を信じるように。特に若い頃は。

でも大人になることは、その幻想に少しずつ折り合いをつけていく過程でもある。他者への期待を感じた瞬間、否応なしに他者もまた自分と同じ人間であると認識する。いや待てよ、お互い人間なんだから。相手を同じ人間として見つめたとき、幻想は消える。でもそれは悪いことではない。なにしろお互い生きていくしかないのだから。結局の所、人生が交わった瞬間を慈しむほかない。

自分なりの情を持ったり楽しみや苦しみを感じながらも、一度乗ってしまった人生列車には乗り続けるしかないこと。たくさん失敗したり裏切られること。それでも抱いてしまう他者への期待。そんなものを、王様ランキングでは描いている。

そしてここで言う他者は、そのまま自分自身にも置き換えられる。自分自身への折り合いと、期待、信頼。

自分や誰かを信じることの難しさ、それでも共に生きようとする人間の良心と勇気のけなげさに、私達は共感するのだと思う。

20歳前後までは異世界転生の娯楽として楽しめるし、それ以上の年齢の大人には、色々な登場人物に感情移入をして、人生を感じる話だなぁと思います。

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