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ジャングルの夜

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小説ともエッセイともつかぬ物語の詰め合わせです。 虚か実かは読んでくれた人の判断にお任せします。
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#ガイド

『ジャングルの夜』第十二話

『ジャングルの夜』第十二話

 谷を下りきると小川が流れていた。
「ここからはこの川の中を進みますが、いつもより水かさが増して、流れも急になっていますので――」と、ここでも気をつけるようにと注意された。とにかくずっと気をつけていなければいけないのだ。

 条件がよければエビやウナギが見られるという川の中をいくらか進んだところで、ぽっちゃりは立ち止まり、
「本来ならさらに奥にある、魔物が住むと言われていた洞穴まで行くのですが

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『ジャングルの夜』第十一話

『ジャングルの夜』第十一話

「こんな天気でもツアーはやるんですね」と千多が言うと、「うちの会社は頭おかしいので、参加者がいるかぎりどんな天候でもやります」と答えた。この時は、ぽっちゃりはそれまでのガイドではなく、ごく普通の二十代の若者のようだった。

 聞くと今までツアーが中止になったことは「無い」そうだ。「ただ、今までで一番条件は悪いですね。昼間と比べると雨は弱くなりましたけど、風が強いし、やっぱり足場が緩いです。台風が

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『ジャングルの夜』第十話

『ジャングルの夜』第十話

 ガイドは風が強すぎて、なんどもめくれ飛ばされそうになりながら、古地図を模した紙を広げて、今日まわるコースを説明してくれた。

 彼が沖縄の自然や生物についてのことや、注意事項だとかいうことを上手いこと、堅苦しくなり過ぎないようにしながら話し、雰囲気を盛り上げたところでいよいよ出発ということになった。

 ジープの荷台に乗るように言われた。いつの間にか、刈り上げの女と、ぽっちゃりのガイドより、

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『ジャングルの夜』第九話

『ジャングルの夜』第九話

 レンジャーのような格好をした女性スタッフがひとりでいて、あいさつを交わしたあと、キャビンに模した施設内のカフェのテラス席で待つようにうながされた。

 そこにトレッキング用の長靴が一足だけ用意されているのを見て、千多は参加者が自分だけだと悟った。嵐になるかも知れなかった晩にジャングルを歩こうなんて人間はそうそういない。

 危険事項に関する同意書にサインしている間に、副社長から電話が掛かって

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