〈山梨県紀行〉いま、山が私を流れている。
息苦しい。蒸し暑さで目が覚めた。
防犯のため窓を閉め切って寝たから自分の吐いた二酸化炭素で車内が温暖化している。
大切な用事で山梨県甲府市にきた。
感染症拡大の影響を鑑みて、車での遠征。
長雨のため、各地で洪水が起こっている。今回は「絶対に外せない用件」なので、大事をとって前々日の夜に大阪を出発し、前日の夕方には到着した。
男一匹、車中泊。
飲料無人自動販売設備と喫茶スペース(駐車場)が一体化したイノベーションストア「ハッピードリンクショップ」でビバークした。
山梨、長野方面に行くと頻繁にに見かけるこの施設は、車中泊にもってこいだ(ジュースも、ちょっと安く買える)。
目を覚ましてあたりを見回す。
外はもう明るいが、誰もいなかったハッピードリンクショップに、数台の車が停まっている。工事現場のおじさんたちが出勤してきたのだ。
職人たちがキビキビと支度する様に触発され、今日のミッションに向けて気合いを入れ直す。
しかし、長時間の運転と車中泊で、身体がベトベトだ。頭も痒い。
幸い、ここは景勝地・昇仙峡のすぐそば。清流で手をすすごうと、川を目指して車を走らせた。
昇仙峡は「日本一の渓谷美」とも言われる名勝。水晶や花崗岩の産地でもある。
中腹に車を駐め、朝露したたる山の中をメインスポット仙娥滝まで登った。
普段は美しい滝だが、このところの長雨で激しい瀑布になっている。さらに登ると、滝口の上は綺麗なせせらぎだった。
「よし。ここなら手を洗える」
手を洗い、肘まで水に浸す。気持ちいい。
水をすくい二の腕まで洗うと、新鮮なマイナスイオンが真皮層まで沁みてくるのが分かった(科学的根拠無し)。
すっきりすると、頭の痒さが気になる。
「頭も洗いたい」
岩に手をついて登頂部を浸した。ズボンが汚れないように、膝はついていない。
土下座と腕立ての中間くらいのポーズで耳のすぐ上まで川に浸ける。
ほんの十秒で、信じられないくらいの爽快感だ。
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