春の定期人事異動に思う

定期人事異動の季節。前職の同期に聞くと、今回は大きく人が動くらしい。引っ越しを伴う人事異動も複数あるようだ。

私の場合大きな転機となったのは、まさに前職の引っ越しを伴う人事異動だった。

①慣れ親しんだ営業職から品質管理の仕事へ。

②大阪、東京と大都市のみで暮らしてきたが新潟県燕市の片田舎へ

③新潟県燕市と兵庫県姫路市の直線距離約700㎞の間での単身赴任

人事異動のメリットと言えば、同じ会社の中で視野を多少広げられるところだろう。今まで親しんできた仕事のやり方や、視点では仕事が回らないことがわかる。他の地方に行き、各地方の良さを発見できる。このようなメリットがあると私は思う。

とはいえ、私にとってはそれ以上のデメリットも感じた。第一に家庭面。金銭面、精神面双方の点で家族と別居するデメリットは大きい。もし私の異動に伴い、家族と同居を選ぶ場合、自動的に定職(専門職)を持っている妻の仕事を取り上げてしまうことになる。そうなると妻のキャリアには埋めがたい断絶が起こってしまい、専門性を活かしにくくなる。2人で稼いでいくことのメリットを放棄することは、家庭の生計を一社へ委ねることになりリスクも大きくなる。

仕事面のデメリット「部署を跨いだ異動で、固有の会社のことには確実に詳しくなる。とはいえ、会社組織を取り払った一個人で考えた時に残る私の強み、専門性は付くといえるのか。」

こうも思った。一度部門を跨いだ異動をすると、たぶん再度同じような部署跨ぎ移動が発生する。きっと個別の専門性を高めることは困難になるだろう。特に前職の業界はエッジの利いた業界でもない。会社の内部をひたすら詳しくなることでしか生き残る道は無くなるのではないか。露骨に言うと、会社に都合よく飼いならされてしまうように思ってしまったのだ。

それらの懸念が、異動のメリットよりも大きいと感じた。辞令に従い移異動し、実際に1年生活してみて、その考えにブレが無いことを確認し、転職の方針を決定した。

私が考える人事異動のもう一つのデメリットは、実は社員が主体的に考え、キャリアを選んでいく機会を奪っているのではということだ。何年かに一度天の声のように降ってくる人事異動。それに従う。収入面の問題はあるが最終的にどこに行くかわからない。と会社に自分のキャリア形成を任せてしまう。こうなると実は今取り組んでいる業務へのコミットメントが弱まる。そういう一面があるのではないか。

例えば極論であるが、1年の年収、赴任地、業務を自分で交渉して決められる仕組みになったらどうだろう。「私の年収は2,000万円」「営業部長職」と自分で設定した場合、それに見合う働きをしなければと、本気度が変わってくるのではないだろうか。

年収も、赴任地も、業務も会社が一括して決める定例の人事異動。高度経済成長期の右肩上がりの時代。各種税率も低く、夫の収入だけで家族がたやすく養えた時代。しかも終身雇用も当たり前。会社が神のように信じられるシステムで、組織に忠誠を誓ってさえいれば給与が定期昇給で自動的に上がるような時代には、定例人事異動は社員の情緒的なつながりを高めることもでき、良いシステムであったと思う。

だが、今の社会の実態をみると、生産性を高める効果は薄れておりマイナス効果のほうが大きいと思う。終身雇用制が崩壊している今、会社への忠誠度が薄まっている。1980年に35%だった共働き世帯の割合は現在約70%になるなど社会体制が変わっているのにいまだにある、昭和安定期の残り香のようにしか思えない。何のためにそのシステムや慣例があるのか。そもそも何のためにそのシステムや慣例が作られたのか。昭和は遠くなり、今や令和の時代。企業の人事制度や仕組みも昭和ベースを一度チャラにして、抜本的に変えていったほうがよいことは間違いないだろう。

個々人の意識も同様。会社や組織との付き合い方も時にウェットに、時にドライにメリハリをつけてやっていくほうが良いと感じる。

♯人事異動 ♯単身赴任 ♯組織 

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