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20㎡に込める世界観(ホテルに泊まって思考ドライブ ③:ホテル1899)

今回はホテル1899の宿泊記録のB面です。

ファンベースという考え方

ファンベースマーケティングという言葉を知ったのは1年半ほど前だ。

「2割のリピーターが会社にとって8割の売上に貢献してくれている」「ロイヤリティーの高いファンが、口コミによってさらにファンを増幅してくれる」「だからまずは自社の製品やサービスのファンになってもらうのが大事」というような話で、言葉にしてしまえば当たり前のことなのだが、1年半前にこの本を読んだ時には、マーケティングという分野が何をやる分野か全く知らなかったこともあり、目からウロコの連続であった。

購買意欲を高めて売りつけるいわゆるCMやキャンペーンのような広告ではなく、もっとジワジワ価値観に訴えながらその商品・サービスを好きになってもらう、というのは、中長期的にビジネスをやっていく上では非常に重要な視点だ。

ホテルや宿泊業界もいろんな形で「ファン」の獲得を目指している。旅行で同じホテルに年に何回も泊まるということでなくても、数年に1回○○に旅行に行くと定宿となっているホテルがある、あるいは、出張の時にはきまってこのビジネスホテルに泊まることにしている、そういう人は多いだろう。今でこそ「旅行」そのものが遠ざかってしまっているが、数年単位で見ると宿泊業界は「ファンベースなマーケティング」が有効な分野だといえる。

世界観をつくる

先日紹介したホテル1899は、「龍名館」という老舗ホテルの新しいブランドとして誕生したホテルだ。龍名館自体は私も泊まったことがないので、いずれ泊まりたいと思うが、老舗ということでずっと東京の地(御茶ノ水・八重洲)で他の数多あるホテルに埋もれることなく、これまで営業を続けてこられているのはファンやリピーターが多いと思う。

そんな老舗が新しくホテルブランドを立ち上げるわけだが、今までの「龍名館」の名前を前面に出さずに、新たなブランドテーマとして掲げたのが「お茶」というテーマである。

このブランドサイトを見ていただくと一目瞭然であるが、ホテルとレストランのテーマとして、一貫して「お茶」の要素を取り入れて世界観を作り上げていることがわかる。(これ調べて初めて知りましたが、レストランは御茶ノ水にあるようですね)

「大きな世界」観

「ファン」を作り、魅了し続けるためには、統一された世界観が重要になってくる。ディズニーリゾートは、周辺ホテルやモノレールなど園に入る前からディズニーの世界が始まっているし、敷地内ではキャストだけでなく清掃スタッフまでその世界の住人のように振る舞い、お客さんを楽しませるというのは有名な話だ。

一方ホテル業界に目を向けると、高級ホテルはこの「世界観」にかなりこだわってものづくりやサービスを徹底している。いずれ話に上げたいと思っているが、その真骨頂はアマンリゾートだと思う。非常に高級であるため、私のような庶民にとっては高嶺の花なのだが、「アマンジャンキー」という言葉があるくらい、一度アマンの魅力にはまったら抜け出せないようだ。

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そして忘れてはならないのが星野リゾート。最上級の「星のや」のなかでも「星のや京都」は、宿へのアプローチとして船に乗って移動するという演出まである。流石に気合が入っている。

いずれの事例も、最初は小さなスタートだったと思うが、今や超一流企業。圧倒的な物量(ハード)とノウハウ(ソフト)で完璧に世界観を作りきっているため、消費者はその世界に浸り、非日常を味わうことが出来る。いわば、「大きな世界」を作るというやり方だ。

「小さな世界」観

一方でそんなに資本がなくても、「小さな世界」をつくりあげることで、ファンを魅了する、というやり方もある。

例えば、ディズニーリゾートとの比較という意味では、リアル脱出ゲームで有名な「スクラップ」なんかは「小さな世界」で勝負を行っている。今やかなり大きな会社になっているだろうが、基本的にはビルの1室を改装したり、会場を1日借り切ったり(要は仮設)、その中で「リアルな」脱出ゲームを行う。大学のサークルの延長のような手作り感満載の仕掛けなのだが、それでも1回1時間程度の真剣勝負、その1時間は脱出という目標に向かって、見ず知らずの人とも協力しながら、謎解きをしていくため、その世界にのめり込むことになるし、それゆえにファンも多い。

じゃあ宿泊業界で言うとアマンや星のやとの比較は、というと、「小さな世界」をつくってファンを増やしているホテルは日本中にたくさんあると思う。老舗の温泉旅館もそこでしか体験できないおもてなしがあったり、小さなデザインホテルもちょっとした仕掛けで世界をつくっている。

「お茶」というテーマと世界観

今回泊まったホテル1899もまさに、そういった小さな積み重ねで世界観を作り上げるタイプのホテルであった。

そもそも、「お茶」の世界(とりわけ茶道)は、茶室や茶器、細かな所作などディテールが作り上げる「小さな世界」観を非常に大切にするものだ。そういったことからも「お茶」というテーマとホテル客室というこじんまりした空間とは「小さな世界」をつくる、ということにおいて相性が良いと分析できる。

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ただ、実際には「お茶」というテーマはインバウンド受けを狙うという下心的なところもあったと思われる。しかし、先に述べた通り、奥深いテーマでもあり、当然日本人も「お茶」を趣味や生き甲斐として愉しむ人も多く、そういった人にも訴求できるホテルになっている。

現に、スタッフの方の話によると、7月の再オープン以降、日本人客の利用(ビジネス・レジャーどちらも)が戻ってきており、中には再開を心待ちにしていたというリピーターの方もいらっしゃるということであった。このホテルはオープンして2年弱であるが、しっかりファンを獲得し始めているということだ。

Withコロナの時代といわれる中で、多くのマーケット分析の見立てでは、インバウンドが日本に戻ってくるのは相当先(数年)になる、ということのようだ。これから数年辛抱だ、と言われている中で、小さくても唯一無二の世界観を作り、着実に日本人のファンを獲得していくホテルが生き延びていくのだろう、と思っている。

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過去記事は以下にまとめています。




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