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作曲家が作品を自分でハンドルする時代と出版社の役割



例によって例のごとく吹奏楽業界をメインとした話ですが、普段僕の事業のうち楽譜出版事業の「Golden Hearts Publications」は、実はあまり楽譜の「出版」は行っていません。作品を出版するのに、作家さんへの入稿料、浄書家への浄書代など1作品仕上げるまでの初期投資が結構かかる(Golden Hearts Publicationsの場合は10万円ほど)ので、なかなかホイホイと出せないのが現状です。他の出版社さんの場合、自社で浄書スタッフを雇っていて単価が安く済むとか、逆にどんどん浄書させていかないと人件費の無駄遣いになってしまうとか、入稿料を支払っていないとか、各社それぞれ方針があるでしょうからなんであんなにポンポン出版出来るのかよくわかりません。(金持ちなのかな)

Golden Hearts Publicationsで最も多い契約は海外で自費出版をしている作曲家との「日本国内での印刷・販売代行」というエージェント契約のようなものです。アメリカのMurphy Music Pressという出版社とも輸入販売の契約をしていますが、Murphy Music Pressも同じ用に自費出版をしている世界中の作曲家とエージェント契約のような形の契約をしていることが多いようです。Murphy Music Pressにプロモーション・販売などを代行してもらっている作曲家は、カバーアートや浄書、卸売を許可するかどうかなど、様々なことを自分でハンドルすることができます。基本は自費出版ですからね。Golden Hearts Publicationsの場合はGolden Hearts Publicationsが日本のマーケット向けにカバーや紙質、販売形態、プロモーションなどを細かくアレンジすることが可能な契約を結んでいますので、「日本で演奏されるならまあなんでもいいよ」というスタンスの作家さんが多い印象ですね(もちろん日本で演奏されることを各自とても楽しみにしています)。

Murphy Music PressやGolden Hearts Publicationsと契約している彼らのFacebookなどの投稿を見ていると、世界中を飛び回り、指導や作曲などの仕事に集中しているような様子がよく写真付きでアップロードされています。それまでシンプルなカバーしか作っていなかった作品の新しいガチなカバーを作ったよ、みたいな投稿もありますし、「どこそこの国の人は現地のどこそこの会社から私の楽譜が買えるようになりましたよ」みたいな投稿もあります。そのほかの現地での細かいプロモーション・印刷・販売などはMurphy Music Pressのようなエージェントに任せているような感じです。もちろん彼ら自身が宣伝のために見本市のブースにいることもありますが、それもどうするかは各自の自由です。ブースではエージェントのブースではなく自分の「出版社」のブースを数人の自費出版作曲家と共同で確保している場合もありますね。Facebookなどで「私のサイトから買って下さい」というような投稿はあまり見かけません。どこで誰とどのような楽しくクリエイティブな仕事をしているか、を発信することがその作曲家のブランドを押し上げていくような効果があるように見えますね。多くの場所で多くの人と関わることで彼らの名前の認知度が上がっていき、消費者側が彼らのサイトを訪れれば、作品の詳細ページから「ここから買えますよ」と例えばMurphy Music Pressにリンクが貼ってある。より作曲家としての仕事に集中しながら、作品や自身の売り出した方は出版社に丸投げせずに自分でハンドル出来る要素を多く保持できる状況を作り出しているわけですね。

この流れは今はアメリカで特に多いようですが、Golden Hearts Publicationsでもアメリカのほか、台湾、シンガポール、イラン、ブルガリア、イギリス、ベルギー、オランダ、フランスの作曲家と「エージェント」契約を結んでいますから、今後世界中で同じような「自費出版」の形は増えていくのではないかと思います。

日本でも同じ用に自費出版をする方、または自分で作曲家兼出版社の経営者として活動される方、すでに色々おられますが、上記のような働き方も増えていくのではないかと思いますし、僕は増えていった方が良いと考えています。国内マーケットでは少子化に伴い吹奏楽部員数が減少するという傾向がもう10年以上前から指摘されており、それに対して出版社は「少人数でも出来る作品」を作曲家に委嘱し、各種コンクールやコンサート用のレパートリーの売上を確保してきたわけです。「少人数対応」の作品が少なかった時代は需要に対して供給が追いつかないような状況なので、多くの「作曲家」が生まれました。ですが「少人数対応」を求められる場合、それはそれで興味深い作品も生まれますが創造上の制約も多いので、自分の持つクリエイティビティを最大限に発揮するために、作曲家・編曲家は海外のマーケットも見据えていくのが良かろうと思います。自由に作曲し、それをどの市場をメインに据えて発表するか、どの国のどの出版社とエージェント契約してどれくらいのハンドル余地を残すか、そういった考え方にシフトしていくと面白いのではないかと思います。(ちなみにGolden Hearts Publicationsはいわゆる小編成作品というのはほぼないので、グローバルストアを開設して、自社出版物はそのストアを通して世界中に販売できる状態を整えています)

そうなると出版社の役割としてはどうなるかということなのですが、原則は変わらず「契約した作品を1つでも多く演奏機会を持っていただけるようプロモーションする」ということになります。ただこれまで出版社の権利としてある程度自由に出来ていたことに対して、作曲家とは逆に出版社からはハンドル余地が減る形になります。これまで作品を預かりその作品のほとんどをハンドルしてきた出版社としては「なんのメリットがあるんだ」と思うかも知れませんが、海外展開も積極的に行っておらず作家へのリターンは印税と「飲み会」だけ、というような状況がそもそもどうかな、と思うので、その出版社を通して作曲家・編曲家が実現したいことを手助けする、より成功確率の高い方法を作家側に提案する、よりクリエイティビティを発揮できる場を用意する、というような「あくまでもサポート」という形が望ましいのかと思います。「どこそこの出版社の楽譜だから買う」「誰それの作品だから聴く」から、出版社や作家の名前や「コンクール自由曲に最適」などの売り出し方に影響されず、作品そのものに目が行くように作家さんも自分のブランド価値が上がるように発信を強化しなければいけませんが、例えば日本では国内販売に強いAという出版社とエージェント契約しながら、ヨーロッパでの販売はBというオランダの会社とエージェント契約する、アメリカでの展開はアメリカのCという会社とエージェントする・・・というようなことが出来れば、作家さんの自由度は上がるでしょう。出版社は作家側にプロモーションのノウハウを提供しそれを収益化する、自社で抱えている浄書スタッフを使って作家から有料の浄書依頼を受ける、印刷機を持っているならデータ処理代なども含めて分配率を変える、営業プランに合わせて分配率を変える、ということも考えられなくもないですね。新しい契約、新しい自社リソースの販売方法があるでしょう。

大事なことはクリエイターがクリエイティビティを発揮できる場があるかどうか、ということです。そしてそれを自由にハンドル出来る場があるということ、それをサポートできる出版社があること。

おそらくこれが作家さんにとっても出版社にとってもこれからの時代を生き抜いていくための一つの有効なフォーマットになるのではないかな、とかそんなことを考えています。

相変わらず無料で書いているのですけどこれお金にならないかしらね・・・(有料設定すればいいんだろうけどそれより先に伝えたい、カンパとか出来るならしてください)

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ONSAの屋号で個人事業主として吹奏楽や管楽器打楽器を中心に、情報サイト「Wind Band Press」、楽譜出版の「Golden Hearts Publications」、セレクトショップ「WBP Plus」などクラシック音楽関連の事業を行なっています。
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