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20000609 エッチング

 エッチングというと銅版画の技法$${^{*1}}$$を一般に思い浮かべるかもしれない。しかしエッチングというのを「食刻」という意味で広くとらえると、この技術は様々な分野$${^{*2}}$$で使われている。特に大量生産を行う工業分野$${^{*3}}$$ではよく使われる。

 例えばテレビのブラウン管のシャドーマスク$${^{*4}}$$がそうである。細かい穴を一度に沢山開ける方法としてエッチングは使われる。

 エッチングの基本的な工程は次のようになる。
 まずエッチングしたい物、例えば金属板に防食剤$${^{*5}}$$を薄く塗り、何らかの方法で食刻したい部分の防食剤を取り除き$${^{*6}}$$、金属板の表面を部分的に露出させる。
 そしてエッチング液$${^{*7}}$$の中に防食剤を塗った金属板を入れる。金属をエッチングするものは必ずしも液体である必要はなく腐食性の気体でもよい。
 すると金属板の表面が露出している部分がエッチング液で溶け出してその部分が凹む。長い時間エッチング液に入れておけば金属板を貫通する穴が出来る。
 金属板をエッチング液から取り出して残りの防食剤を取り除けばエッチング図形(凹板)が出来上がる。

 エッチングされる物が金属の場合、大抵、エッチング液$${^{*7}}$$は酸性の液が使われる。この時、金属の溶け出し方はどの方向にも均等である。これはどういうことかというと、防食剤を小さく丸く取り除いてエッチングをするとそのエッチング痕は元の防食剤の穴の径より大きな径の半球状の凹み$${^{*8}}$$になるということである。これを等方性エッチング$${^{*9}}$$という。

 ところがシリコンなどの単結晶を酸性のエッチング液$${^{*10}}$$でエッチングすれば金属と同様、等方性エッチングになるのだが、アルカリ性のエッチング液$${^{*11}}$$を用いると等方性エッチングにはならない。
 結晶の並びの方向によってエッチングのされ方が変化する$${^{*12}}$$。シリコンの場合、ある結晶の並び方向に対して違う結晶の方向のエッチングでの溶け方の速さが数十分の一になる。その為、立体的な幾何学模様が自動的に形成される。
 これは等方性エッチングに対して異方性エッチング$${^{*13}}$$と呼ばれている。

 エッチング液に入れておくだけで意図的な構造$${^{*14}}$$が出来上がるのは不思議な感じがする。

*1 銅版画の技術と制作過程
*2 (2) エッチング
*3 超精密エッチング加工
*4 ■第1回:「ミクロの世界を作る印刷技術」
*5 東京応化の印刷材料(感光性樹脂版/PS版等)のご紹介
*6 Photo-lithography -- section 2
*7 ETCHING
*8 マイクロセンサ開発のための加工技術の研究
*9 ナノワールド 日立計測器グループ
*10 エッチング
*11 苛性カリ
*12 単結晶シリコンの異方性エッチング
*13 マイクロメカニズムの試作に関する研究
*14 ナノアート :日立ハイテク

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