逗子でしかできないことを探究したい。映像作家 仲本拡史さん
(※今回のインタビューを動画にまとめています。よろしければ、動画も合わせてご覧ください。)
普段は映像作家として活動しながら、大学で現代美術を教えている逗子在住の仲本拡史さん。
逗子に住み始めたきっかけは、葉山しおさい博物館に展示されていた、相模湾の海洋生物の剥製を見たことだ。逗子に移住する前は、逗子にあるたくさんの個人商店から歴史を感じ、懐かしさを覚えていた。逗子に移住し、その間に色々な人や新しい場所との出会いを経て、当初感じていた懐かしさというよりも心地よさを感じるようになった。逗子に暮らし続けて今年で3年経ち、今では街が生きて成長していくのがよくわかるようになった。
映像作家に興味をもったきっかけ
横浜の美術予備校に通っていた時に教わった中嶋莞爾監督の授業やアンドレイ・タルコフスキー、ヴィム・ヴェンダースなどの作家性の強い表現、今までの映画で見てきたものとは全く違う伊藤高志の実験映画を知り、映画には思っていたよりずっと広い可能性 があることを知った。
そのことがきっかけで、東京造形大学の映画専攻に進学した。大学に入学してからは、脚本や俳優が居なくても、映像がそのまま語りかけてくるような作品を作る映画監督がたくさんいることを学び、イギリス留学を経て、東京藝術大学大学院の映像研究科に進学し、今の作家活動にいたる。
仲本さんは「まだ誰もやったことのないことに挑戦している、実験的な精神を持っている」映画監督に影響を受けてきた。
【自分で全てをコントロールせず、その場の発見やアクシデントを大切にするということを心掛けている。また、新たな発見や思いがけないことが起きるような場所づくりも意識して作家活動をしている。】
生き物や自然をモチーフにしている理由とは…
小学生のころ、父親の転勤でミャンマーやインドネシアに引っ越し、熱帯の自然環境に触れたことが大きなきっかけとなる。ロンボク島に宿泊した時のコテージでは、屋根にいる大きなヤモリが白熱球に照らされ、心臓が透けて見えていたのが衝撃的で、生命の神秘のようなものを感じていた。それから生物学や生態学、農学や人類学、宇宙論などに興味を持ったのだが、何か一つの専門家になるよりも、やりたいことを全部やろうと思い、芸術の道を選ぶことにした。
逗子アートフェスティバル(ZAF)との出会い
逗子アートフェスティバル(ZAF)には共同代表の長峰さん(長峰さんのnoteはこちらをご覧ください)の誘いで関わるようになった。長峰さんとは、大学院の時にメディアアーティストの藤幡正樹さんにお互い教わった縁で知り合ったそう。
また、仲本さんは毎年夏の夜に行われてきた横浜市金沢動物園で「ひかるどうぶつえん」 というメディアアートやアニメーションの展示を、アニメーション作家の池亜佐美さんと一緒にプロデュースしたことがあったので、その経験を生かして、ZAFにも何か関われるのではないかと思い参加しようと思った。
また、引っ越してすぐに長峰さんのプロデュースで松澤有子さんのインスタレーションを展示していたのを見たこともZAFに興味を持った一つのきっかけだ。
【そのインスタレーションは海で拾ったプラスチックを使い、逗子駅前のスーパースズキヤの屋上に展示されていた。特に夕暮れ時がきれいに見えた。】
ZAFに関わって最初のころは、引っ越したばかりということもあり、逗子の知り合いが長峰さんくらいしかいなかったという仲本さん。しかし、ZAFを通して、色々な人と知り合うことができて、とても嬉しかった。
特に印象的な出会いだったのが、 葉山在住のアニメーション作家、重田佑介さん。重田さんには、2020年の螺旋の映像祭の作品展示のほか、メインビジュアルを作ってもらった。最近では、一緒に一色海岸で釣りをする仲になった。
ほかにも、逗子やその近くに住んでいる若手の作家と出会えたのも、逗子で活動を続けていくうえで大きな励みとなっている。作家以外にも、運営面で活動をサポートしてもらっている人もいる。
また、逗子に移住してから知り合った人たちには、逗子アートフィルム(後ほど紹介)の活動で関わるほかにも蛍の観察会に連れて行ってもらったり、地元の森を案内してもらっている。
このように逗子アートフィルムで現代美術の映像表現のレクチャー、ワークショップ、上映、展示などを行う中で、色々な出会いがあった。
逗子アートフィルムでは次のような場所で開催してきた。
「アートフィルムの勉強会」Doer
「映像作家を招聘してのレクチャー」逗子ののせ
「ダンスのワークショップ」逗子文化プラザ 市民交流センター
「8ミリフィルムのワークショップ」黒門カルチャーくらぶ
「アートフィルム上映会」スズキヤ2F
「現代美術オンライン講義」シネマアミーゴ
「螺旋の映像祭」逗子文化プラザ さざなみホール、市民交流センター、亀岡八幡宮
逗子アートフィルムとは
アートフィルムという言葉は、本来無い造語。ここでは、現代美術、実験映画、ドキュメンタリー、ビデオアート、 メディアアート、ネットアートなど、様々な芸術分野における、映像表現を指している。逗子アートフィルムでは、世界の見方を変え、今までの価値観を揺さぶるような映像表現に出会い、話し合っていくことのできる場を作っていきたいと思ってる。
そのために、逗子アートフィルムでは、アートフィルムの勉強会や上映会、8ミリフィルムの制作やパフォーマンスのワークショップ、メディアアートやアニメーションの展示、実際に作家を招聘してのレクチャーなどをする。参加した人からの評判も良く、楽しかった、またやってほしいなどの感想をもらっている。
逗子アートフィルムをやろうと思った一つのきっかけは、子どもの人口減少などにより大学などの大きな組織で機能不全が起きていることを目の当たりにしたからだ。
そして、仲本さんはもっと身近なところで、子どもから大人まで参加できる、誰かに一方的に教わるような場所ではなくて、まだだれもやっていないことを自分から見つけて、実験していけるような場所になったら良いと思い、逗子アートフィルムの活動を行っている。
逗子アートフィルムについては、インスタグラムで情報発信をしているので、フォローして欲しい。https://www.instagram.com/zushi_art_film/
仲本さんの2021年の作品
今年は、12月3日~5日に逗子文化プラザホールでアニメーションとメディアアートの展示や現代美術の映像の上映 、子ども向けのアニメーションワークショップを行う予定。他にも東京という巨大な都市の周縁にありながら、豊かな自然もあり、自然と人間の生活のせめぎあいを観察できる逗子や三浦半島の特徴を生かして、映像制作をしようと思っている。
今年のらせんの映像祭で展示する予定の目玉作品は、
重田佑介さんのインスタレーションや、
重田佑介+Zennyan「星つぶ屋 Star Stall」(写真:梅田健太/螺旋の映像祭2020)
メディアアーティストの上平晃代さんのインタラクティブアート、
上平晃代「ホッキョクのゆりかご」(写真:梅田健太/螺旋の映像祭2020)
魔女の円香さんと佐藤径亮さんによる3Dアニメーション。
円香、佐藤径亮「TAKEYABU」(写真:梅田健太/螺旋の映像祭2020)
また、映画監督の吉開菜央さんと共同監督した、三浦半島の沿岸海域を舞台にした映画「ナイト・シュノーケリング」も上映したいと思っている。先日スイスでワールドプレミアがあり、おそらく国内では初上映になりそうだ。
「ナイト・シュノーケリング」も三島半島を舞台としており、カメラという人工的な装置を使いながら、自然環境に向き合うというのは、自然と人工物のハイブリットな可能性を模索する行為とも言える。カメラは撮影のために光を必要とし、多くの生命もまた光によって育まれている。
集魚灯に集まるプランクトンや、月の光に照らされた小さな虫たちなど、様々な生命のダンスを楽しんでほしい。
今後のZAFについて
【ZAFでは、今後とも逗子アートフィルムの企画をしていく。ZAFは今後も新しい企画が生まれ、いろんなつながりがうまれる場所になってほしいと思っている。】
まずは「らせんの映像祭」の定着を目指している。そこから、逗子にはこんな活動をしている人たちがいると知ってもらって、徐々にレクチャーやワークショップなど、色々な実践的な試みに関わってくれる人が少しずつ増えてきたら嬉しい。
そして、面白い人が集まって、予想もつかないことが起こるような街になるのが理想だ。
【逗子に引っ越すまでは、できる範囲で世界の全体像を把握したかったため、作家としていろいろな場所を旅しながら、一つの場所に長くいることがあまりなかった。しかし、制作や仕事、生活などの面で自分のやりたいことの軸が固まってきたので、しばらくは根を張って幹を太くし、逗子でしかできないことを追求しようと思っている。そして、その中で発見したことや出会いを大切にしていきたい。】
筆者の感想
逗子に住んだことのない筆者は、仲本さんの話を聞くことで、逗子が美しい場所であり、また、多くの人から愛されている場所だということが良く分かった。そして、熱い思いを持っている映像作家の仲本さんは、逗子アートフィルムで表現しつつ、その活動を通して、逗子の人々のつながりを作っている。このように、自分が好きなことをしながら、同じ地域に住む人とつながりを持てることはとても素敵なことであり、多くの人があこがれることではないかと思う。
また、今回のインタビューを通して、映画には脚本がなく、俳優がいなくても、映像がそのまま語りかけてくるような作品が存在することを知った。そのような実験的な映画を作っている仲本さんの作品をぜひ鑑賞しに、逗子アートフェスティバルに来てほしい。
インタビュアー/ライティング:福井優花
撮影/編集/音楽:本藤太郎
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