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SIerのUXデザイナーとして意識していること

NSSOL Advent Calendar 2019の23日目の記事。SIerのUXデザイナーをやる上で、必要とされることや大切にしていることを共有します。

1. 物事に対する解像度を高めよう

SIerのUXデザイナーは、プロジェクトメンバーの中でも定性的な情報を扱うことが多い。そしてテックやビジネスの人と共有するために言語化することが求められる。例えば、何かのデザインを見て魅力を感じたら、その理由が色 / 形 / 別の要因なのか、魅力の源泉を見つけよう。ユーザーが高評価しているとき、期待通り/ 期待以上 / お世辞、見極めよう。特に目からの情報は重要なので、まずは良い目を養おう。物事に対する解像度を高くすれば、"なんとなく"が言語化されて、感覚ではなく論理的に説明できるようになる。


2. 誰よりもユーザーのことを考えよう

SIer界隈にいる人は、実際のユーザーに会う機会は滅多にない。一緒にプロジェクトを進める顧客の情報システム部もユーザーを知らない事が多い。大規模なシステム開発では、納期や技術的な課題が山積みで、ユーザーは置き去りにされてしまう。もちろん悪意はなく、結果的にユーザーにしわ寄せがきてしまっている。なのでSIerのUXデザイナーはまずユーザーのことを考えよう。そしてプロジェクトではユーザーの代弁者になろう。


3. ユーザーの悩みを深く理解しよう

「幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである。」(トルストイ『アンナ・カレーニナ』より)

システムが提供する幸福はどれも似ている。使いやすい / ミスが起きにくい /  効率よく業務を遂行できる / 生産性が高いなどだ。けれども現状それができていない理由は顧客それぞれである。たとえ同じ業界業種であったとしても、課題を一緒くたにして考えてはいけない。企業レイヤーでは課題は抽象化され同じように思えるが、ユーザーレイヤーで具体的に見ると課題はそれぞれである。抽象化される前のユーザーの悩みを深く理解しよう。


4. UXデザインを自分から貪欲に学ぼう

SIerでUXデザイナーになるなら、自分から学ぶ姿勢は必須。なぜなら社内には、UXデザインを教えてくれる先輩、悩んだときに相談に乗れる人はいない。関連のある書籍を読み漁り、SNSや記事を常にチェックし、勉強会やイベントに参加し、貪欲に学ぼう。非デザイン領域の出身でSIerのUXデザイナーになるのは、環境的にまだHardモード。SIerに拘らないのであればこちらにあるようなデザイン会社に勤めたほうがよい。

5. ウォーターフォール/アジャイルに精通しよう

SIerでUXデザインを実践するために、開発手法に精通しよう。UXデザインと相性がいいアジャイルはもちろんのこと、SIerで主流のウォーターフォールも必要。UXデザイナーをどのようにプロジェクトに参画させるかを知っている人はいない。どのタイミングで何をすべきかを模索し、自ら提案しよう。


6. 外部システムとの連携を考えよう

SIerがつくるシステムは、複数の外部システムと連携し、大きなシステムの一部となる。そのため複雑な制約が生じやすいし、ユーザーの行動フローはシステム単体では完結しない。開発するシステムにだけフォーカスせず、外部システムも含めたサービス全体のUXデザインを考えよう。


7. ビジネスの言葉を話せるようになろう

UXデザインを実践するために、顧客と社内の経営層の両方に理解してもらいましょう。UXデザイナーが提供する価値を、ビジネスの言葉で伝えられるようになると、動きやすくなる。最近は「デザイン経営」が注目され、経営層もデザインの言葉を学んでいるけれども、それを待っていてはいけない。UXデザイナーもビジネスの言葉を話し、お互いが歩み寄ることが大切。


8. 周囲に役立つことを実践しよう

SIer界隈では、そもそもUXデザインとは何かを知らない人が多い。したがって案件に適用するだけでなく、役に立てる場面があれば積極的に実践しよう。プレゼン資料のデザイン、社内イベントの企画、会議のファシリテーションなど、UXデザインが役立つ場面はたくさんある。Employee ExperienceやDeveloper Experienceのような働き方改革もUXデザイナーの得意分野だと思うので、積極的に協力しよう。そうして社内から実績と信頼を積み重ねるていると、UXデザインを理解してもらえるし、より動きやすくなる。


9. デザインの民主化を推進しよう

「デザインはデザイナーだけに任せるには重要すぎる。」by Tim Brown

プロジェクトメンバー全員でユーザーのことを考え、改善するプロセスを進めるのが理想状態。そのためにデザインの知識やテクニックを、テックやビジネスの人が扱えるようにする「デザインの民主化」が重要になる。UXデザイナーはファシリテーターとして、民主化を推進していく。これは社内だけでなく顧客も含めたSIer界隈全体を対象にすることがポイント。顧客もプロジェクトメンバーの一員なのだから。


10. 心を磨き続けよう

これが一番意識していること。誰よりもユーザーに対する責任感、システムをつくる側としての倫理観を常に高く保とう。SIerがつくる社内システムや社会インフラは、一度導入すると数年単位で稼働する。たとえ劣悪なUXだとしても、ユーザーは「使わない」「乗り換える」という選択肢を取りづらく、嫌でも使わざるをえない。なのでSIerがつくるシステムは、ユーザーにとって毒にも薬にもなる。SIerのUXデザイナーにはシステムの毒の部分を取り除き、薬の部分だけを抽出するため、医療従事者のような職業倫理が求めれる。心を磨き続けよう。


SIerがつくるシステムは消費者向けのサービスと比べて、インフラの要素が強く「信頼性」「可用性」「保守性」「保全性」「安全性」が重要視されている。ここに「実用性」「有用性」「有効性」などの観点は入っていない。インフラとしての優先順位付けによって劣悪なUXの社会システムが生まれてしまっている。これはSIerの負の遺産であり、解消するためにはシステム開発においてUXデザインがきちんと実践されていることが重要。それを担うSIerのUXデザイナーは、1~10を意識できると周囲を巻き込みながら変えていけると思います。


去年は書籍を紹介しました。1~10を意識するために役に立つ書籍ばかりなので、興味のある人はこちらも読んでみてほしいです。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。もらったサポートは次の書籍代にあてます!