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大城立裕「琉球処分」


明治5年、琉球の実情調査を行う明治政府の官員の一人として伊地知の姿があった。
余りにも日本内地とかけ離れた琉球の実情が語られる。
大名と言われる王子、按司、親方はいずれも領地を所有する封建領主である。
物語は、彼らとその息子たちを一方に置き、対極に琉球の日本化、皇国化を図らんとする伊地知、その後の松田等の政府を配置する。その中間には、士族と称される特権階級とその支配に甘んずる百姓がうごめきながら、明治8年からその後明治12年5月、最終的に国王が東京に連行され、行政組織も県制度に改編され、封建的所有制も否定されていくまでの経過が描かれている。

この小説で強調されている事柄は、
1. 三司官と言われる行政トップの事なかれ主義。
2. 琉球には明治維新の風が全く吹き及んでいない事実
3. 国王以下士族一般に広範に存在する中国の”恩恵“への強い感謝の意識
4. 日本政府の要求への遵奉を迫る松田に対して、とにもかくにも理由を付けては先延ばしを延々と図る琉球首脳陣。そのいたずらに事実を経過する様はにわかには信じられないが、ペリー来航時にも同様な事実があったことを想起すると小説内容を信ずるしかない。
5. 上京して直接日本政府首脳に両属を歎願する試み(明治8年)
6. 同様なことが、前回の失敗にも拘らず明治12人に再度試みられるが、松田の計略で王子が嘆願使として上京しそのまま足止めされ、国王が1か月後に連行される事態を招く事につながる
7. 結局琉球の人びとは争うことは琉球人同士で行うが、薩摩やヤマト人に対しては先に恐れが来る意識構造になっていると言えよう
8. 日本政府の意向を十分認識しながらも、東京滞在中に清国公使着任を知ってそこへの働きを行う琉球の使節。他方、死を覚悟して福州を経由して北京への陳情を再三行う意識も看過できない。清国の軍隊派遣を期待する士族層。→「ヘラルド」ニュース
9. 琉球処分は、中央政府においては大久保死後、伊藤博文が中心になるに及んで一挙に積極的になっていく。
10. 処分を巡り列強の動向を気にする大久保
11. “ただふしぎな蒙昧”という表現が、作者が理解した、当時のヤマト人の受け止めた琉球人の社会である
12. 頑固党と開化党の対立。国賊。ヤマト人の蔑視への反発
13. 鍋島初代県令の施政→教育、封建的領有性否定、
14. 琉球上層部人士の拘留。最後の清国嘆願使節(本小説の主人公・亀川盛棟)が福州で見聞した阿片戦争以後の凋落した清国の実態
15. 亀川盛棟は日清戦争にまだ福州に残留している同志を帰国させるべく再度福州に向かうが、仲間割れか殺害された模様。以上の記述で小説は終わる。

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