📖鍵のない夢を見る|辻村深月|直木賞

「あなたにそっくりね」誰かが少年犯罪の精神鑑定を解説するニュース番組を見つめながら呟いた。

扇情的に繰り返される報道は、あたかも稀有で猟奇的な出来事のようにあげつらう。私たちはあぐらをかきながら、私たちとは異なる世界のものであることを確認して批評しては、はりぼての此岸で安堵する。

犯罪は日常の延長線上に確かにある。登場人物は、本の中でなだらかに罪を犯してゆく。何が過ちなのかわからぬまま、気がつくと彼岸にいる。彼らは私達の友達かもしれない。親類かもしれないし慕った師かもしれない。そもそも自分かもしれない。




(わたしにそっくりだわ)生来持ち合わせた気質なのか、はたまた誰かによるラベリングなのかはわからない。いまだに自身を疑い彼岸と此岸の狭間を行きつ戻りつ生きながらえている。

日常的にテレビを観ることを止めて3年。今私の部屋には、共感しやすい私を手懐け彼岸へ誘うものはいない。

多くの犯罪が、人間離れした人によるものではなく、ごく普通の人間が罪を犯してしまうのだということをひしひしと感じる物語。

彼岸の者たちを抱き締めてみたくなる。


memo
鍵のない夢を見る|辻村深月 20220518読了

短編集 直木賞受賞 各編舞台が田舎 主人公登場人物が編ごとに異なる 各編登場人物が犯罪者

泥棒
大人になったりっちゃん(バスガイド)と再会 子供の頃の回想 (りっちゃん)の友達の家で万引きを繰り返す友達(りっちゃん)の母 放火 八百屋お七 好色五人女|井原西鶴にも登場 十把一絡げ じっぱひとからげ
みやたにだんちの逃亡者
出会い系で付き合った彼氏から暴力 嘘は言わない心に決めて嘘を言う|相田みつを 詩を贈られるのが新鮮 誘拐もどきだったか? 二人で好きなだけ親のクレカを使って過ごす 彼氏警察に捕まる にべもなく首を振られた
芹葉大学の夢と殺人
教授が殺される ラブホ上階から女美術教師転落死の報道 美術教師視点で語り 大学時代の留年中である彼氏雄大の犯行かも 連絡が来て案の定 二人で逃亡を画策 雄大が死刑になれますようにと飛び降り自殺
君本家の誘拐
ショッピングモールでベビーカーごと赤ちゃんがいなくなる 店警察大捜 出産前から出産後の回想愛情反省 自宅にいた そもそも連れて出掛けていなかった 連日の睡眠不足 隠蔽未遂 自らベビーカーを店の死角に置き去りにしかける 子が起きて目が合って主人公の母が大きく泣く


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