見出し画像

『百年の恋も冷める言葉』と『紳士淑女になれる言葉』

デパートのアクセサリー売り場にて。品のよい美しい女性がショーケースの中を眺めています。

次の瞬間、店員に対して一言。

「あのさ、そこのヤツ見せてくんない?」

・・・百年の恋も冷めてしまう瞬間かもしれません。

言葉遣いからわかること。それは、その人の“人柄・教養・背景”です。

万葉集では日本を、“言霊の扶くる国”“言霊の幸ふ国”と形容したように、古来より日本では言霊の持つ絶大な力を大切にしてきました。

天皇陛下や皇族の方々はもちろん、人の上に立つ立場の方々は言葉をことのほか大切に使うよう帝王学ノブレスオブリージュ(上位者の義務に伴う教育)の中で学びます。

画像4

よく「イギリス人は天気の話が好き」と言われます。確かにイギリスの天気は変わりやすい。ですが、昔から、こと社交の場においては単に天気の情報を知りたいと思って話しているわけではなかったようです。それには理由がありました。

有名な話ですが、英国には厳しい階級社会がいまだに色濃く残っており、一言話しただけでその人が上流階級か労働者階級が瞬時に識別されてしまうという実際があります。一言の挨拶のアクセントでその人の先祖代々の職業、住んでいる地域はおろか通り名までわかるのだそうです。

階級社会の英国では階級ごとに居住地域と生活地域が区別されています。したがって、階級が異なる人同士が交流したり言葉を交わししたりする機会が極端に少ないのです。そのような社会ではいくら外見を上品に装っても言葉を変えない限り簡単に見破られてしまいます。

しかし、日本は英国のような階級社会ではないため、アクセント1つで先祖代々の職業が判断されたりすることはありません。誰もが一目置くような美しい日本語を話すには、日本語の正しい知識を持ち多少の訓練をすればよいのです。

画像5

ここで重要なことを申し上げます。
それは、“日本語=敬語である”と言っても過言ではないということです。

言葉遣いは心遣い…とよく言われますが、実際にその通りだと思います。ですが、それは結果としてそうなっただけであって、本来は上司を尊敬しているから尊敬語を使うのではなく、「目上の方には尊敬語を使う」というのが日本語のもともとのルールなのです。

ですから、敬語はシステムとして覚えるもの基本を知って使う美しい言葉に、心が自然とついてくるものです。そこで、ここからは敬語の使い方のポイントについて簡単におさらいしてみたいと思います。

ポイントは、「文法的に正しい(尊敬語・謙譲語・丁寧語)」だけでなく、「TPOP(Time/Place/Occasion/Person)を踏まえていること」

なお、昭和27年の国語審議会の答申にも「これからは普通の言葉の範囲内で最上級の敬語を使う」との基本的な了解があり、その後時代を経て、現在に至っています。敬語については報道機関の表現にも様々な違いがありますが、全体としてあえて簡略化の方向を目指していると考えられます。このように時代や世の中の変化、業界により、必ずしもこれが正解と言えないケースもありますことをご理解の上、この先を読み進めて頂けましたら幸いです。

では、ここで先程のデパートのシーンを思い出してみてください。

画像5

お客様⇒店員
「お忙しいところ大変申し訳ないことでございますが、その指輪を是非拝見したく存じます。どうか見せて頂けますよう、伏してお願い申し上げます。」


上記は極端な例です。違和感極まりないですね(^^; 
場に合っていない最上級の敬語の使いすぎと、目的や相手に合わない言葉を使った結果です。

敬語にも最上級の敬語から通常の敬語まで様々にあります。ひと口に「敬語」と言っても、親しい上司とお得意様には使う場合が多少異なってきます。

例えば、親しい上司になら「明日までにお返事を頂けませんか」でも失礼にならないのですが、相手がお客様であれば「明日までにお返事を頂けないでしょうか」とさらに丁寧な表現を使う方が好ましいでしょう。

一般的に、「~でしょうか」→「~でございますか」→「~でございますでしょうか」などと、語尾は長くなればなるほど丁寧な印象になります
「~いただけませんか」→「〜いただけますでしょうか」→「〜いただけないでしょうか」とレベルアップしていきます。

画像6

また、手紙の末文にも、「どうかお体おいといあそばされますことをお祈り申し上げます」と使うことがあります(私はよく使います)。このように、“お〜あそばす”という最上級の尊敬語を用いたほうが相手が好印象を持つと考えられる場合もあれば、逆に相手が違和感を感じると思われる場合は、「どうかお体おいといになりますことを〜」、さらには、「お体にはお気をつけて〜」などに変化させていきます。

ちなみに、「ご自愛ください」という言葉をよく見かけますが、目上の方には使わない言葉ですので、注意が必要です。

それから話は横にそれますが、よく聞く言葉に「すみません」があります。
カフェでお店の方に声をかけるとき・・・
「すみません、お水ください」

“すみません”は謝る言葉です。呼びかけるならば、“恐れ入ります”。あらゆる場面で使うことができ、格調高く便利な言葉の一つです。
「恐れ入りますが、お水を頂けますか」

このような敬語の言い換えの基本をマスターしておけば礼を失することは少なくなるでしょう。その上で、その相手や業界の慣習に合わせることは必要不可欠ですし、さらに自分や自社のキャラクターを加味することは上級編と言えるでしょう。

そして、上手に使い分けるためには、「序列」をわきまえることです。

「序列」とは優先する順番のことです。

画像3

例えば、以下は「上位者」と「下位者」の一例です。

「親」と「子」
「兄」と「弟」
「先生」と「生徒」
「上司」と「部下」
「客」と「店員」
「クライアント」と「請負業者」
「先輩」と「後輩」
「年長者」と「年少者」
「知らない人」と「自分・家族」

しかし、同じ一人の人でも、親であったり子であったり、先生であったり生徒であったり、場所や目的に応じて立場も変わりますね(^^♪

画像7

ですから、様々な場面でこの序列を意識することはとても大切なことです。さらに、それを踏まえた上で、その場をどんな場にしたいのか、相手とどんな関係性を築きたいのかによって、使う言葉も変わってくると思います。

例えば最近、経営者の方々からこんな声をお聞きすることが増えました。

『お客様は神様だ』と言われていた時代から、物やサービスが飽和状態の中時代が変わった。特にコロナ禍で先行きが見えない中で、お客様のニーズは複雑に変化している。お客様がしてほしいことを勝手に想像して押しつけるよりも、サービスを受けるお客様に直接聞いて、一緒に作り上げていくことが求められる

画像7

この考え方により、コロナ禍の中売り上げを大きく伸ばしている企業もあります。サービスの内容そのものは勿論のことですが、同時に、お客様には最上級の敬語を用いるべきとした時代から、お客様とのより良いコミュニケーションのために、適度な敬語やフランクな言葉も時には効果的だということも、意味していると思います。

本日は現代社会における言葉の大切さについて書かせていただきました。

ポイントは以下の2点です。
1. 敬語(尊敬語・謙譲語・丁寧語・その他の言い回し)は日本語の基本なので、システムとして覚える
2. その上で、TPOP(Time/Place/Occasion/Person)に合った美しい日本語を使うためには人間力とセンサーを磨く日頃の訓練が必要である

基本を押さえた、TPOPに応じた美しい言葉遣いができることは紳士淑女の証。日本語という美しい言霊(ことだま)の宿る言語を使うことができる幸せをしみじみと感じます。

画像8

「恐れ入りますが、その指輪を見せて頂けますか」

長文に最後までお付き合い頂き、有難うございます。
本日もどうぞ素敵な一日をお過ごしになりますように♪

ユウキアユミワールドアカデミー
校長 由結あゆ美

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?