しかい。

目を閉じた頃からもう覚えていません。見えなくなれば、思い出すこともなくなるでしょう。風が吹き、流れて行くのをずっと聴いています。私には、それしかすることがない。

名前を呼びません。そこにいるから。私はそれをばらして、細かくばらして、また一つずつ組み立てて行く。手探りで。そして新しいかたち、新しいつながり、気付かなかった角度と温度を知るのです。私には幸いに、体がある。それだけが救いでしょう。それ以外の助けが他にありますか。

何度も繰り返しそうになる。繰り返してしまいそうになる。既の所で気付いて、やめる。消す。引き千切る。立ち戻る。白紙にする。どこかに穴を空けたい。勿論、私のために。息をしていることが難しくなって来る。同じ部屋で、同じことを繰り返していると。

消しゴムで皮膚をこすれば、この体も消えると思ったんです。なので何度も擦り付けました。皮膚は赤くなり熱くなり痛みました。でも、消えませんでした。何故。生きているから? 紙に書いた文字は? 生きていないから消えるのですか。

鳥になる少年の夢を聴く。風だけが自由に吹き渡る。飛び続けることは出来ないことを鳥は知っている。風だけが永遠に飛ぶ。私は耳を澄ますことしか出来ない。言葉にならない風の音を。どこかで泣く人の漏らした吐息を。

いつだって白い紙の上に戻る。何度でも白い紙の上に立ち戻る。