牛テールのスープ
最寄りのスーパーで買えない品を求めて、別のスーパーへ。
冷凍肉コーナーに牛タンと牛テールのパックが並んでいた。
「牛の舌も尻尾も、まだ食べたことがない。売ってるの初めて見つけたよ。結構、高いんだね」
と言うと、夫が牛テールのパックをサッとカゴに入れてくれた。
「牛の尻尾を料理したことあるの?」
「あるよ。圧力鍋で煮るだけ。骨も全部食べれる。僕、作るよ」
家計の状態を考えると、気が引けるお値段だった。
でも、それを理由にやめようだなんて、言えなかった。
足を剥離骨折した私に、カルシウムを摂らせようとしてくれている夫の気持ちを受け取りたかった。
帰宅すると早速、圧力鍋で牛テールの調理にとりかかってくれた。
煮込んでいる間は、しばらく放置できるので、一緒にテレビを観ていた。
夕食の時間に牛テールのスープを盛りつけ、
「骨も柔らかいから、一緒に食べて。カルシウム」
と言いながら、差し出してくれた。
正直なところ、骨は美味しくなかった。
柔らかくなってはいるものの、肉のようには味が染み込んでいない。
2日目の味も、そうだった。
骨を食べる時は、噛み砕いたあとスープと一緒に飲み込んでいた。
ただひたすら、夫の気持ちを体内に取り込むつもりで。
以来、牛テールを扱っているお店に行くたび、もう隣には居ない人の優しさに包まれて、穏やかな時間が流れる。
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この作品は、猫耳アイコンの作者・猫野サラさんの『4コマ漫画(まとめ・3)』を拝見し、思い出のエピソードをコメントしたのがきっかけで生まれました。
一作書ける機会をいただき、ありがとうございます。
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