喧嘩しながらデートしたね
去年、ソメイヨシノの時季に喧嘩をした。
何が原因だったんだろう?
「港の近くに、お花がたくさん咲いてる所があるの。そこに行きたい」
「ワイルドフラワーガーデン ブルーボネット」を思い浮かべながら、そう言った。
彼は、釣りの準備をし始めた。
いつだったか
「釣りは、子どもの頃に、叔父さんの横でほとんど見てただけ。でも、粉のえさを水でこねたり、それを針の先につけたりはしていたよ。一緒に釣り、してみたい」
と話したのを、覚えていたようだ。
釣りに行くの、今日じゃなくていいんだけど……、彼は完全に釣りに行く気だ。
氷を沢山詰めたクーラーボックスを、二つ用意した。
釣り竿も二本。
立ち寄った釣具屋さんで、彼はお財布にたった一枚しかない千円札で、500円以上もする餌を買った。
次にコンビニに入ったので、ATMを使うのかと思ったら、なけなしの小銭でチョコチップロールパンと飲み物を買った。
驚いている私をよそに、彼は車を名古屋港方面に走らせる。
「ブルーボネット」には、連れて行ってもらえるのだろうか?
車は、初めて知った公園のような場所に入って行った。
釣りスポットらしい。
花は、なくはないけど、あまり咲いていない。
彼があまり外に出たがらない時に誘ったせいか、ご機嫌は良くない。
それでも一応、二人並んで釣りを始めた。
生きた虫を針に刺すのは無理で、彼にえさをつけてもらった。
何度か釣れそうな場面はあったけれど、釣果(ちょうか)がないまま帰ることになった。
彼は忌々しそうに、残りの餌を海に投げ捨てた。
釣り道具を車に納めたあと、「あそこで写真撮ろう」と、桜の木の前に立つよう促された。
桜の木はまだ若く、私の身長と大差ないくらいだった。
風で髪が乱れるのを気にしながら撮ってもらうと、2枚とも表情が良くなかった。
その場で「それ、2枚とも消しておいて。変な顔してる」と言った。
「ブルーボネット」は、もう閉園していそうな時刻だったので、諦めた。
車の中で、彼をファミレスに誘った。彼も気に入っているファミレスに。
代金は私が払うから、と。
「あー、そんなのいい! 店よりも、家で何か作って食べるのが好き。店で食べるのは、あまり好きじゃない」と、断られた。
車を運転していた彼は、ずっとイライラしていた。
げんなりとしたまま、一緒に彼の部屋に戻り、下味をつけておいたお肉を揚げ焼きし、たっぷりのサラダと一緒に、ご飯の供にした。
そのあとは、どうだったろう?
あまり会話が弾まないまま、いつも通り、20時半には一緒に布団に入った気がする。
桜の下に立ってカメラを構えた時、そんな平成最後の春を思い出した。
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