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異なる二重の言語体系へ訴求。言語学からマーケティングを捉える。

最近、マーケティングという曖昧でざっくりとした概念を、ビジネスの文脈からではなく、社会科学的に考えることにハマってしまって。笑
今日は、言語学の観点からマーケティングについて再考してみようと思う。
参考文献:「はじめての構造主義」

言語学×マーケティング

言語学で著名なソシュール。この人の考え方は何度か読んだことがあったが、マーケティングとの関連性という観点から、新たな発見があった。

ソシュールは、言葉を「シニフィエ」と「シニフィアン」に分けて整理している。「シニフィエ」とは、語が持つ感覚的側面、いわゆる意味内容のこと。「シニフィアン」とは、語を構成している音素のこと。

例えば、「犬」を例に考えてみると、
・シニフィエ:4つ足で立つ小動物
・シニフィアン:/inu/
ということになる。

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言語学では、このシニフィエとシニフィアンの間には、関連性がないとされている。つまり、/inu/と音のするものが「4つ足で立つ小動物」を意味するということには、必然性がなかった。逆に言えば、「4つ足で立つ小動物」を指す音素は、/inu/でも/isu/でも/iku/でもよかった、ということになる。
(この点、個人的はめちゃくちゃ面白いなと思っていて。社会であたりまえに使われている言葉って、その言葉が何を指すかということには、全く必然性がなかったと言われたら、何も信じられなくならない?みたいな。笑 世の中であたりまえに思われていることって、人間が恣意的に作ってきただけなんだと気付かされる。)

そして、ここでの重要なポイントとして、シニフィエのもつ意味内容は、言語システム(≒文化・社会)の中で「犬」がどのくらいの位置を取るかによって、決められると整理している。国や社会によって、辞書的には同じ意味内容を指していても、実際のところ若干の差異が生じるということだ。

つまり、語の価値(=意味)は、言語体系の中に位置付けられて初めて決まる。

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こうした議論は、マーケティングの側面から再度捉え直すことができると思う。

「価値は言語体系の中に位置づけられて初めて決まる」
→「価値は市場に置かれて初めて決まる」・・・
→「価値はターゲットが想定されて初めて決まる」・・・

①「価値は市場に置かれて初めて決まる」
最近は、ITベンチャー企業などを中心に、アジャイル型開発と手法が流行ってるが、それはつまり新しい商品やサービスは、一度市場にトライアルで出して、顧客にフィードバックをもらってから、改善を重ねていくという手法である。
これはある意味、その商品やサービスの価値を、市場に置くことによって測ってもらっていると考えることができる。

②「価値はターゲットが想定されて初めて決まる」
商品やサービスを開発する時、必ずターゲットを想定する。それはまさに、その商品やサービスの価値は、ターゲットの言語体系が想定されないと、判断できないからだと言える。

このように考えると、マーケティングは、商品・サービスを、特定の言語体系の人に対して、どのように価値付してもらうことが効果的なのかを考える営みであるとも考えられる。

ある意味、特定の言語体系を想定し、それに合わせたシニフィアン(音素)を設計して、その先にあるシニフィエ(意味内容)を醸成している。

言語学から捉える、インフルエンサーマーケティングの難しさ

これが、インフルエンサーマーケティングだとさらにややこしくなると思う。なぜなら、マーケターは、下図のように2つの言語体系を想定しなければならないから。

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インフルエンサーマーケティングでは、インフルエンサー自身がその商品やサービスを深く理解し、あわよくば好きになってもらうことが、非常に大事なポイントになる。なぜなら、インフルエンサーが熱量を持ってその商品やサービスの魅力を自身の言葉で表現してもらうことで、その先にいるフォロワーに熱量が伝わり、フォロワーを巻き込んでいくことができるから。特に、昨今流行りのアンバサダーマーケティング/ファンマーケティングは、とりわけその重要度が高いと思う。

だからこそマーケターは、商品やサービスを、インフルエンサーの言語体系でどのように価値づけしたら良いかを考えると同時に、インフルエンサーにどのように伝えてもらい、その先にいるフォロワーの言語体系の中ではどのように価値づけしてもらいたいかを考えなければならない。

このように、インフルエンサーマーケティングには、「異なる二重の言語体系への訴求」という構造的な難しさがあると思う。(だからこそ成功した時は、超嬉しいし、インフルエンサーも企業もwin-winの関係になれる!)

終わりに

最近、複数の本を読み漁っているが、自分の中にある問いが言語化できないでいる。そこで、大学で卒業論文を執筆していた時に、よく教授に言われた言葉を思い出した。

悪霊はライオンだとわかれば、どのように対処したら良いかわかる。
とにかく対象と相撲を取れ。

私は、このように理解した。

自分の中での疑問や問いの正体が「ライオン」であるとわかれば、その「ライオン」に打ち勝つために何をしたら良いのか、初めて戦略を立てることができる。
だからこそ、その疑問や問いととにかく向き合ってみなさい。

何がわからなくて、何が知りたいのか、今ひとつ言語化できないでいるけれど、とにかく学び続けることが大事なんだと思う。

分からないなりにひとつひとつ整理して、向き合い続けていきたい。


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