1983年 東京ディズニーランド⑥

6.東京ディズニーランド開園


1983年4月15日、金曜日。
待ちに待った東京ディズニーランドが開園した。残念ながら生憎の雨模様の中、オープニングはワールドバザールの中央に急きょ作られたミニステージで行われた。
我々フープ・ディ・ドゥのキャストは開園当日のダイヤモンドホースシューでの本番がない。その代わりに、夕方のオープニングセレモニーのダンスショーへの出演がある。このために朝のオープニングセレモニーへの参加は無かった。午後三時の集合となった。ダイヤモンドホースシューのドレッシングルームでは、全員が入りきれないので開園日だけは集合がリハーサルルームに変更になった。フープの初日は翌16日の土曜からだったが、開園日であるという緊張感が漂っていた。
一回限りのオープニングステージに少しずつ緊張が高まる。全員が揃ったところでリハーサルルームから一般キャストのドレッシングルームへと全員で移動した。そこで渡された衣装はオープンシャツに水色のストライプのチョッキ。赤いパンツにチャップリンが被る様なハット。
一回だけのステージのためにオリジナルの仕立て衣装を着れる幸せ。
驚きと緊張と興奮が僕を饒舌にさせた。
「アキラさん、この衣装、今日限りだと思うともったいないですね。」
「くれるって言うならもらうけれど、こんな派手な衣装は他のステージじゃ着れないよ。」
「えっ、もらえるものなんですか?」
「欲しければ、衣装さんに聞いてみたら?」
「アキラちゃん、ユーちゃんをそそのかしちゃダメよ。この子は何でもすぐ信じちゃうのだから。」
マジーがやんわりと現実を教えてくれた。
ドレッシングルームで着替えを済ませた。進行スタッフの案内に誘導され、完全に暮れたパークの専用通路でステージ下に移動した。
場所は、昨日のリハーサルで確認できていたが、ステージ上でのダンスリハーサルは無かったので心配になって来た。ウェーティングエリアで何度も繰り返しダンスの振り付けを確認しながら小さく身体を動かした。
この一か月間、日本国内で初めてとなる本場ディズニーランドのミュージカルダンサーとして練習してきたのだと自分に言い聞かせた。今日がプロとしての第一歩だと考えると緊張はマックスに達していた。
余計なことは考えるなと自分に言い聞かせて、振り付けを頭の中で繰り返す。知らない内に動きが大きくなって、隣にいたマジーに当たった。
「ユーちゃん、落ち着きなさい。もうしっかりと覚えているのだから。今更ジタバタしないの。振り付けに振り回されたらダメよ。
自分を見てくださいって気持ちで踊らなければプロじゃないわよ。」
「はい。ありがとうございます。」
返事はしたものの、緊張は解けないし不安が胸を覆う。
いよいよ出番がやって来た。ステージにライトが入った。急に周りが明るくなり音楽が始まった。前から次々にステージに向かってかけ始めた。
「笑顔。笑顔。ディズニースマイル。」
自分に言い聞かせながら跳ねるようにステージに上った。眩しくて周りが全く視界に入って来ない。ディズニーの楽曲メドレーに合せながら完ぺきに踊り終えた。ステージ上で静止すると照明がカットアウトした。
肩で息をしながら静止の態勢で正面を見据えた。
初めて観客が目に入った。何千人いるのだろう。
『息をのむ』・・・人生で初めての体験だ。
暗闇のステージの上で僕の足が初めてガタガタと震え出した。


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