『秘密』
知らないでしょう?
私があなたにどれだけ好かれたいと思っていたか。
どれだけあなたの香に包まれていたいと願ったか。
眠らせない強いカフェインみたいに、あなたは私の心を支配した。
真似をして苦いコーヒーを飲んでみたり。
喉が痛くたって煙草を吸ってみたりした。
でもあなたの目の中に私は入ってくれなくて……私の初恋は終わったの。
「君を失うなんて考えられないよ」
そう言ってあなたは私を愛しげに抱きしめる。
今……私は、あなたの腕の中に抱かれている。
合コンを抜け出して、あなたの胸に頬を寄せて安らいでいる。
「羽鳥くんって声が魅力的だよね」
「そうかな?」
しっとりとした唇を重ね……夢にまで見たあなたとの甘い時間を過ごす。
これは魔法。
そうよ……あなたは知らないでしょう、高校時代にずっとあなただけを見つめていた私を。
ちょっと冴えない自分にあなたは不釣り合いだって知ってたわ。
だから、ちょっとだけ魔法をかけてもらったの。
一生あなたを虜にする為に。
ねぇ、私の唇はお気に入り?
私の目の形はどうかしら?
鼻の高さもきっとあなたが気に入るって信じてこんなふうにしたわ。
「ねぇ、私に昔会った事なかった?」
意地悪くこんな質問をしてみる。
あなたはクスッと笑って私の鼻をツンとつついた。
「こんな美人に会って、忘れるわけないじゃん」
「合コンで偶然会うなんて……本当に運命だね」
「そうさ、運命だよ」
これ、私が企画した合コンなの……あなたに再会する為にね。
あなたは私に群がる男性をかきわけて近づいてきた。
だって、私はあなたが好きだと思った女性そっくりに生まれ変わったんだもの。
当然よね。
「俺の事、好きになれそう?」
私の頬に指を滑らせて、あなたは不安そうにそう聞く。
「当たり前よ」
あなたの傍に……一生いるつもりなのよ。
好みじゃない私になったらいつでも文句を言ってね。
私はいつだってあなた好みの女になるわ。
ただ、この魔法の秘密は一生教えてあげない……これだけは許してね。
END
*mm_yamamoto様、素敵なイラスト拝借しました。ありがとうございました
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