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Cult Trash

Cult Trash
桜井夕也

暑い日だった。世界は狂騒としていた。ここ、フエでも天使の翼が開きかけようとしていた。私はきみの死によって我をなくす。私は自分の死を死ぬことができない。それが何を意味しているのか、まだわからなくていいだろう。世界はだからあのハノイのホーチミン廟の白い近衛兵のように、青ざめていた。

人妻の稚児のLINEのアイコンよきみが輪廻を信じるのなら

怒りは怒りとして身体に堆積してゆく。この遠吠えがあまりにもフックティック村のかまどに似合っていたものだから、思わずフォーン川に身投げしたいと思ったくらいだ。金と赤、それらが俺の網膜の裏を泳ぎ、流星群となって地球上に降り注ぐ。天使の喇叭は吹き鳴らされたのだ。
もう後戻りはできない。adieu, à Dieu(さようなら。神の御許へ。)。そう、誰かが言っていたことだが、俺達は何ものにも回収されず、解き放たれ、炸裂して、蕩尽し尽くす。それがこの一度限りの生を生きるということ、自分の死を死ぬということだ。
桜並木を一緒に歩いていたのを覚えているか。ここ、ベトナムでは桜は見かけない。かわりにブーゲンビリアやダリアが咲いている。啓定カイディン帝のロココ様式の皇帝廟は、悪趣味に過ぎるが、きみに伝えても何の意味もないだろう。〈と-ともに-いた〉ということ。なるべく簡単に忘れたいが、だけど奪われることは奪うこと、奪うことは奪われることなんて知らなかったから。

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