見出し画像

#315 日本の「組織文化」の弊害を考える

いかがお過ごしでしょうか。林でございます。

今日は、昨日の続きで、パーソル総合研究所の「はたらくWell-being」に関する国際調査をもとに、「はたらく幸せ実感」が低い日本についてデータを見ながら考えていきたいと思います。

昨日は、本調査対象国18ヶ国の中で、日本の「はたらく幸せ実感」を感じている人は最下位で、その原因は主に「裁量権が少ないこと」にあるのではないか?ということが示唆されるという点を指摘しました。

例えば、20〜30代の若い層や、非管理職で「はたらく幸せ実感」が特に低いことや、正社員・公務員のような非雇用者において「自分の働き方や仕事について、自分に選択肢が多いと感じている」人は半数にも満たず、他国と比べても最も低い水準にあります。

そして、その背景には「上層部の決定にはとりあえず従う」「物事は事前の根回しにより決定される」という「権威主義・責任回避」が高い傾向がある事実が影響していることが示唆されるという調査結果をご紹介しました。

今日は、この「権威主義・責任回避」が強い日本の組織文化がもたらす、その他の弊害を指摘して、じゃあ自分たちはどう向き合っていくのが良いのか?ということを考えていきたいと思います。


上司のマネジメント行動を抑制する

まず、本調査で改めて明らかにされている前提として、「上司のマネジメント行動は、部下のはたらく幸せ実感・不幸せ実感と相関関係がある」ということです。

マネジメント行動がはたらく幸せ実感とプラスで相関し、不幸せ実感とマイナスで相関している
この傾向は18ヶ国全てで同様の調査結果

つまり、上司のマネジメント行動そのものが、部下のはたらくWell-beingに直接的に影響を与えているという話。多少飛躍もあるかもしれませんが、やはり「はたらく幸せ実感が低い」日本において、より必要なのはマネージャー教育ではないか?と考えさせられます。
日本では、管理職になった人に対して数回の管理職研修を行うことはあれど、マネージャーになる前の人の素質を見極めて、一定の時間をかけてマネジメント教育(≠マネジメント研修)をする機会が現場任せになっているのを感じます。

プレイヤーとして、一定の仕事の成果を上げてきた人や、一定の年齢に達した人を「ではそろそろ・・」という感じで管理職に任用するケースも多く、中にはマネジメントの素質を持ち合わせてない人や、そもそもマネジメント業務に興味がない人が管理職として自分のチームを持つケースも少なくないのではないでしょうか。

そういう人が管理職になったチームメンバー側は割と最悪で、「上司が自分の話を聞いてくれない」、「仕事の成果に対してほとんどフィードバックがない」、「自分には仕事の決定権がほとんどない」と感じますから、はたらく幸せ実感を感じられないというのは大変理解できるところです。

ただ、本調査が示唆するところは、単純に「マネジメント意識のない上司」その人だけが悪いというわけではなくて、日本の「組織文化」そのものが「上司のマネジメント行動を抑制している」という構造的な問題に踏み込んでいる点です。

「権威主義・責任回避」の組織文化では、上司のマネジメント行動が低い傾向

上図がそれを示していますが、日本においては「権威主義・責任回避」「心理的安全性のなさ」「成果主義・競争」の文化が強い組織ほど、はたらく幸せ実感とマイナスに関連していることが分かります。

反対に、「職場の相互尊重」「チームワーク」「自由闊達・開放的」な組織文化のもとでは、はたらく幸せ実感とプラスに関連しています。

まぁ、そもそも組織文化そのものを作り出しているのが経営者や管理職だろう、という考え方に基づけば、上司のマネジメント行動が希薄だから組織文化も権威主義になるとも言えるのですが、「権威主義・責任回避」傾向が強い組織文化のもとでは、無意識にマネジメント行動が抑制されてしまうので、より意識的にマネジメント行動を促すことで意図的に「職場の相互尊重」や「チームワーク」を促す働きかけが必要というのは認識しておくのが大事かなと。

職場の相互尊重は、就業者の寛容性にも影響。日本の寛容性は、香港に次いで二番目に低い

メンバーの成長実感を抑制する

私が深刻だと感じたもう一つの点は、日本の「成長志向度」「成長実感度」が18ヶ国最下位だという事実です。さらには、成長を志向しているけれど成長実感がないというGAPも最も大きいという結果が出ています。

日本の成長志向度・実感度は、ともに最下位

本調査において、過去1年間に「成長実感」を感じている就業者は、はたらく幸せ実感が高いという結果が出ていることが分かっています。しかもこれは、世代や国・地域に関係なく、密接に関わっているという調査結果です。

だから、この「成長実感」というのが、はたらく幸せ実感を高めるには非常に重要なファクターとなっているわけですが、「権威主義・責任回避」が強い組織文化のもとでは、「過去1年間の成長実感」とマイナスに関連することが分かっています。
つまり、「権威主義・責任回避」が強い組織文化のもとでは、なかなか就業者が成長実感を感じることができず、結果として幸せ実感も感じにくいということです。

「権威主義・責任回避」が強いと成長実感はマイナスに

さらには、下表の通り、日本では勤務先以外での学習・自己啓発活動を「とくに何も行なっていない」就業者が52.6%となり、18ヶ国中ダントツで高くなっています。特に、40代を超えると60%近くの人が学習していません。

ここには、主に2つの要因があると考えられており、1つは、そもそもはたらく幸せ実感が低いので仕事へのモチベーションも高くなく、学習・自己啓発を促されないという点。もう一つは、「年功序列・終身雇用」形態で社内のOJTを中心に組織内での能力向上をベースとしてきた日本では、業務外で学習しても実態としてのメリットを感じにくいと考えられている点です。

ここまでを整理すると、「権威主義・責任回避」が強い組織文化のもとでは、「はたらく幸せ実感」を感じにくく、モチベーションも上がらないので学習もしない。学習しないから成長実感も感じにくく、幸せ実感も感じられないという負のスパイラル構造になっていることが分かります。

自分たちはどうするか?

ここまでの調査結果からの分析で、日本の組織文化が、就業者の「はたらく幸せ実感」を下げて、成長実感までもを削いでいることが分かったわけですが、大切なのは、「じゃあ自分がどうするか?」という視点。

結論は明快で、幸せ実感を多く感じるためにも、「組織文化」のせいにして何もしないのではなく、個人として、本業の時間以外で少しでも学習して、それを本業や本業以外で実践して、自ら「幸せ実感」の良い循環を作り出していくしかないと思うんですよね。

半数以上の人が「勤務先以外で学習を何もしていない」ので、ちょっとでもやるだけで、既に上位50%以上には入れてしまうわけです。
インドでは、「勤務先以外で学習を何もしていない」人は3.2%しかいませんから、ちょっとやるだけでは全く足りませんが、日本ではちょっとやるだけで上位半分に入れてしまうという、超イージーモードとも捉えられるわけです。

私の場合はやはり、マネジメントを学び、実践の中でゴリゴリ試しながら実績を付けていくのが日々のチャレンジで、成長実感も感じられるので、幸せ実感もあります。
さらには、マクロでは「権威主義・責任回避」な組織文化が蔓延る中で、それを変えることは容易ではないけれど、その中でもミクロに目を向けると色々と工夫できる余地がある。固いところを逆行して崩していくプロセスも、なかなか楽しいものです。

全体の調査結果としては、日本で生まれて暮らす者としては、なかなか残念な調査結果になっているわけですが、逆転思考で考えればここにはチャンスしかなく、個人レベルでは少しやるだけで前に出れる、と捉えるのが良いと考えています。

この記事が参加している募集

もし面白いと感じていただけましたら、ぜひサポートをお願いします!いただいたサポートで僕も違う記事をサポートして勉強して、より面白いコンテンツを作ってまいります!