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見えない街路樹


 最後に来たのがいつだったか思い出せないほど、ここに来るのは久しぶりだ。
別に避けていた訳じゃない。来ようと思えばいつだって来れただろう。ただ、気がついたら自分が思っていたよりもずっと時間が経ってたんだ。
 改札を出ればかすかに懐かしい匂いがして、ふいに胸が苦しくなった。
町並みは随分と変わっていて、奇跡的に昔のままある古びた書店は、時の流れから置いてけぼりにされてるようだ。
きょろきょろと辺りを見回しながらゆっくりと歩みを進めると、見慣れたはずの通学路に差しかかった。
 そこはたくさんの街路樹があって秋になれば赤や黄色で鮮やかに、冬になればそれが落ちてガサガサと歩きにくくも楽しかった。でも、どうやらその樹々もいなくなってしまったらしい。今はすっかり歩きやすくて、自分の靴音がやけに耳に届く。
 特別な思い入れはなかったはずなのに、当たり前にあると思っていたものがなくなると、こんなに寂しく感じるものか。それは自分が年をとったせいだろうか。
昔よりも寒さに弱くなり、ぐるぐると巻いたマフラーに顔を埋めながら今はもう見えなくなった街路樹を見るために、そっとまぶたを閉じた。

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