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会社との紛争が解決したことを同僚に伝えること/禁止することの意味

#日経COMEMO #NIKKEI

雇い止めを巡る労働審判の内容を口外しないよう労働審判委員会に命じられ、精神的苦痛を受けたとして、長崎県大村市の男性(59)が国に損害賠償を求めた訴訟の判決で、口外禁止条項を付けたのは違法と長崎地裁が判断した。


1) 口外禁止条項とは

記事に出てくる労働審判とは、こと解雇事件では、労働者側が「解雇は不当だが、会社ではもう働きたくないので、解決金を支払ってもらい新しい生活を送りたい」と考えるときによく利用される裁判所の手続きです。

理由の当否はさておき、解雇された労働者が会社と争う場合、同僚や労働組合関係者から支援を受けることがあります。そのため、もし当該解雇事件が解決した暁(あかつき)には、労働者しては、感謝の気持ちを伝えたり、経緯について報告したい旨希望することがあります。

他方で、会社側は、和解したことやその経緯、解決金額が明らかになることで、他の従業員に生じる「影響」を懸念します。そこで、和解事実そのものや和解経緯、解決金額につき第三者に口外しないよう約束するよう求めることがあります。これが「口外禁止条項」です。

2) 口外禁止の実益は?

口外禁止条項は、和解交渉の最終局面で会社_労働者間でもめがちな条項ですが、人の口に門は建てられませんし、解雇紛争があったこと自体周知である一方、具体的な解決金額まで報告したいというニーズはあまりないので、揉めるケースであっても、口外禁止対象を和解金額(+α)に絞ることでまとまるケースが多い印象です。

ただし、多くの場合、口外禁止条項はあくまで「枝葉」の約束です。会社側も労働者側も「退職すること」「会社が和解金を支払うこと」で合意しているのであれば、双方ともとやかく言うインセンティブはさほどありませんので、双方にとって最重要の約束というわけではありません。

3) 「余計な」おせっかいとその理由

本件では、第三者である労働審判委員会(裁判所)が、労働者側の協力者2名に解決事実を伝えるほかは双方とも口外してはならないと命令し、「余計な」口外禁止条項をつけたことが違法である、と判断されました。

余計なおせっかいをした理由は、定かではありませんが、①「口外禁止条項を入れなければ異議申し立てをする」との会社側発言(本音ではない)を真に受けたか、あるいは、②「口外禁止条項を入れても労働者側が異議申し立てをすることはないだろう(受け入れてくれるだろう)」とタカをくくっていたこと、などが理由ではないかと推測されます。

いずれにしろ、本件の紛争解決のために(解決金を除く)口外禁止条項を設ける必要はなく、「余計な」おせっかいであったと考えます。

※違法であるとの結論自体は正しいものの、長崎地裁判決の論理構成は腑に落ちません。より詳しく知りたい方は、濱口先生の下記意見(私も賛成)をご参照ください。

濱口桂一郎「労働審判における口外禁止条項の相当性と国家賠償責任」 

法律家の方は ジュリスト 2021年 11 月号 の127ページご参照。

※本件は本件の労働者側代理人は新進気鋭の労働者側弁護士(略して「ろうべん」)であり、委員会としては、異議申し立てがないとしても(実際なかった)、国賠請求の可能性について「危険予知」すべきであったのでは?



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