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私の家族

私の家族   作:高木優至
 
両親とフランス料理店に来ている。飲み物だけ来ている。ワインが進む。
 
(間)ふーん。母さんの好きにすればいいんじゃない? 私そういうのよくわからないし。別に父さんが気にならないなら、それでいいんじゃないかな?(間)料理遅いね。フランス料理ってこんなもんなのかな? あー、そうかもしれないね。よくわかんないけど。(間)ん? びっくりした? まあ、私から誘う事なんて今まで無かったし…というかできなかったしね。給料もらって安定してきたから、たまにはこういうのも…ねえ。
 
(間)特に何も変わらないけど。起きて、仕事して、たまに遊んで、寝る。そんな特別な事なんてそうそう起ったりしないよ。女の一人暮らしなんだからさ。二人はどうなの? でしょ? (間)あ、おばあちゃん? うん、わかった。たまには顔出すね。でもなんだかんだ仕事忙しいから、どうだろ? うん、わかってるって。
 
あ。ありがとうございます。やっと来たわ料理。じゃあ改めて。乾杯。美味しい? 良かったね。
 あのさ、食べながらで良いんだけど。私言いたい事があって。お兄ちゃんもお姉ちゃんも家を出てからさ。私達3人になったでしょ? それから私…結構辛い時期があって。それなのにあなたたちは、まるで気付かず…いや気付いていたかもしれないけど手を差し伸べなかった。ねえ、なぜ見ないふりをしていたの? 嘘、何もしてくれなかったじゃん! 私どんだけ寂しかったか…わかる?
 
このままじゃダメだと思って。なけなしのお年玉握りしめてさ。心理相談に行ったら「あんまりピンとこないよね。ここにはそれこそ暴力を振るわれたり住むとこなかったりって大変な子たちが来るんだよ。」とか言いやがって。お前は人の話を聞くのが仕事だろ!って。私の心のケアもちゃんとしろよ! 金払ってこれかよ!って。あいつコノヤロ…今思い返しても、いやそんな事が話したい訳じゃなくてさ。
 
私ね。こっそりタバコ吸ってた。知らなかったでしょ? 私なりのささやかな…え、知ってたの? 嘘、え? 知ってたの? え、何も言わなかったじゃん。いや、そうだねじゃなくて何で何も言わないの? 普通ダメだとか言わない? え? 私がおかしいのかな?
 
じゃあさ。机の引き出しの奥に隠してた、ウイスキー。母さん達の隙を見計らっては飲んでたの、知らないでしょ? え、知ってるの? これも? 嘘でしょ? え、何で何も言わないの? 普通取り上げたり叱ったりするもんでしょ? え、何で、どうして? 私の事…どうでもよかった? だってそうじゃん! 私がこれだけSOS出してるのに何もしてくれなくて。私はここにいるよ! いるんだよ!
 
昔から母さんが皿洗いながらブツブツ文句言っているのが本当に嫌だった。だから私こんなんなっちゃったじゃない! 父さんは…本当に何もしてくれない! 大学の入学式も卒業式も二人とも来なかったし。どうせ私は運動神経は悪いし、愛想もないし、ネクラでコミュ障なヤツですよ。私ってそんなに…。
 
そうだね。そっか…確かに子供の幸せを願わない親なんていないよね。母さんは大学行かせてもらえなかったから、私には教育を受けさせてあげることが一番だと思っていたんだ…そっか。(無理して笑う。)そっか、そうだよね。…父さんは何も言ってくれないんだ。
 
後日父から届いた手紙にはこう書かれていた。「私は人に対して構えがあり、虚勢を張っていたと思う。お前にもそういう面があるんじゃないのか? 人は変わるものだから、少しづつでも改善を目指すべきで、私もそうしようと思っている。」そっか。そういう物なのか…親ってやつは。

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