「善意という死者、悪意という生者」003
人々は焼けた空からの光を浴びて、温かな海の中を泳いでいる。
幅広の道の左右には、緑色の蔦と、夕焼けのオレンジで染まったガラスの壁面のビルが建っている。
どれもこれも中を見せないガラス張りで、多少の差異があるとすれば、各階から垂らされた蔦の伸び具合だけだった。
歩道を歩く人々は、互いに挨拶を交わしているけれど、僕にはそれが口の動きという視覚情報と、そして電覚で知ることができる「お疲れ様です」という「形」でしか理解できない。
なぜなら僕は真っ赤なヘッドフォンをしていて、聴覚が塞が