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最初こだわってたけど意味なかったスタートアップ哲学8選

こんにちは、プレティア・テクノロジーズの牛尾です。ARクラウドという世界中に拡張現実(AR)コンテンツを届けるためのプラットフォームを開発しています。

ちょうど先日、全世界(※EU圏を除きます)に向けて「Pretia」というARプラットフォームをリリースしました。

さて、スタートアップ業界にはたくさんの格言があります。「こうすれば成功する」「こんなことしていたら成功しない」といった、因果関係がはっきりとしないがそれらしい傾向、をたくさん耳にします。

私自身も、何を隠そう初期から多くの自分ルールを課していました。偉大な経営者たちが実践してきた行動を踏襲するのは、ある種の成功するための願掛けのようなものです。

『NARUTO』より

ただしそれらの中では、はっきりと意味なかったねと思うものもありました。今回はそれらについて書いてみようと思います。

想定読者:
・起業家
・スタートアップ創業メンバー
・これからアーリーステージのスタートアップに入ろうとしている人
・最近スタートアップに転職して、謎ルールに違和感を持っている人

1. 登壇を避ける

BtoB事業を持つスタートアップであれば、初期は登壇なんかしても大していい案件は来ないです。他の登壇者に比べて優位性を示すことが難しいからです。それよりはプロダクトそのものを磨いたり、紹介による直接提案ベースで実績を積み上げたほうが良いと考えていました。

ただし明らかにフェーズが変わったな、と感じたのは明確な事例が話せるようになった後です。Pretiaで言うと、エンターテインメント事業なら『PSYCHO-PASS 渋谷サイコハザード』のリリース後、つまり初の超人気IPとのコラボがリリースされたときです。

1つめの事例創出さえ出来れば、聴衆は「この会社と取引するとこんなことができるのか」とイメージしやすくなり、PRや登壇活動は意味を持つようになります(同じ事例をこすり過ぎると効果は薄れますが)。

準備に対する費用対効果の観点ですと、慣れてくるとピッチ資料の大部分を使いまわせます。想定聴衆に向けたカスタマイズ提案等をちょっと付け足したりして、効率的に抜きん出た印象を残すこともできます。回数をこなすと規模の経済がはたらくということです。

Pretiaも直近の登壇では、約3時間の準備と2時間のイベント参加により、十数件のお問い合わせを頂くというまっとうな成果を上げることができました。

2. タクシーを使わない

「タクシーに乗るのはぜいたく」と考え、どんなに炎天下であっちこっちに営業が立て続けになる日も、電車・バス・徒歩移動を徹底していた時期がぼくにもありました。

しかしタクシーの強みは回復と仕事を同時にすることができる点です。電車移動であれば移動中にできる仕事はわずかな上に、電車内でスマホから堂々と社内資料を開くのは、情報漏えいの観点でも好ましくありません。

『F-ZERO X』でダメージを受けながら回復するやつ(伝わったことない)

ただし、やはり会社経費でタクシーに乗る以上は「コストに見合う成果を出せるか?」は意識しておくべきと思います。下記が私がタクシーを使う目的として許容している自分ルールです。

・成果物のレビュー&フィードバックをおこなう(乗り換えやルート確認がないので集中できます)
・登壇・商談の脳内シミュレーションをする
資料作成をする
・前の予定が長引き、最速で客先に行く必要がある
・疲労が積み重なった状態で、少しでも勝負アポ前に回復したい

3. 採用目的か曖昧な会食を自費でおこなう

創業期はリファラルが最強の採用チャネルになりますので、友達などと久しぶりに飲みに行くことが多くなります。ただこのとき「これはプライベートか?仕事か?」と判断しづらく、経費で落とすのが躊躇われることが多くなります。ぼく自身も、今のAdministration Manager(管理部長)が就任して「会食は領収書切ったほうがいいですよ」と背中を押してくれるまでは、ほとんど自費で会食をおこなっていました。

ただ絶対的な原則として、基本的に人と会えば会うほど採用は成功します。その心理的コストを少しでも下げて、採用成功につながるならば、それはやはり事業成長のための経費として正当化され得ると思います。Pretiaでも、まったく意図なく一緒に旅行に行ったことがきっかけになって友達が入社を決めてくれたことはありました。

またひとつの考え方として、CEOの役員報酬を上げてCEOのポケットマネーで会食をすると所得税と消費税の二重払いになりますが、会社経費ならば原則消費税だけで済みます。採用フェーズならば、報酬がボトルネックになってリーチできる人数を減らすくらいなら、迷わず経費会食はしまくっていくスタンスでいいと思います。何よりたいていの採用媒体費用やエージェント紹介料に比べたら微々たるコストですし、なかなか採用市場に出てこない逸材にリーチできます。

ただし、実際に入社した候補者が「こいつ領収書切りまくってるな、おれもやったろ」と思われない程度には、節度は重要だと思います。以下、私が会食を経費精算するときの自分ルールです。

目的: ぜいたくな食事そのものが目的ではない
予算: 高額過ぎない
適格: 本当に採用したい人との会食である(誰彼構わずではない)
行動: きちんと会社の魅力を伝えられたと自信が持てる

4. CEOの報酬を一番低くする


これはSquare CEOのジャック・ドーシー氏が実際におこなっていたことを真似しました。創業期は極限までコストを低く抑えたいため、合理的に思えます。正直会社の財布も自分の財布も同じもの(これは今でもそうです)という感覚なので特に抵抗もありませんでした。

ただしこれはぶっちゃけ意味なかったと思います。何故かというと、自分から言ったり月次決算を公開したりしない限り、基本的に誰もCEOの報酬は知らないからです。

またたとえCEOの報酬が低いことを知ったとしても、何もメリットはありません。実際過去、試しに採用面接時に「ぼくもこれくらいしかもらっていないんですよ」と言ってみましたが、「そうなんだ。それは低いね(ほんで?)」という反応で、まったく候補者当人がお給料を妥協する理由にはなりませんでした。
※その候補者には結局ぼくよりはるかに高い給与をオファーし、今でも大活躍してくれています笑

よく考えれば当たり前ですが、従業員にとってハッピーなのは、社長の給与が低いことにつられて全員の給与が低いことではなく、自分の給与がまっとうな水準であることで、それにはCEOの報酬が高いか低いかは関係ない、ということです。

社員のことを思い、まっとうな給与を払ったり仕事の負担を減らしてあげるためならば、しっかり自分でも報酬をもらいつつ、定期的に飲みに行ってリファラル採用につなげたり、商談を獲得してきたりすべきと思います。もちろん個別のアクションが有効かどうかは事業によります。

ちなみにPretiaでは、今も私より給与が高いメンバーはたくさんいますし、グレード制度のもとに定期的な昇進・昇給もおこなっています。

5. 起業家との交流に時間を使わない

創業期は「起業家同士で飲むのは時間の無駄」とロックに決め込んで、まったく付き合いの場に出ない、プログラム後の懇親会も即退場みたいな時期が私にもありました。

ただし今では横の起業家同士では定期的に情報交換をしています。特にVARK加藤くん (https://twitter.com/kato_vark) とMyDearest岸上くん (https://twitter.com/tokimekishiken) のふたりは、同じXR業界の経営者かつ同い年というのもあり、いつも色々相談させてもらっています。同じ起業家が、それぞれの努力とネットワークにより仕入れたベストプラクティスには、正直学ぶものがあります。大方の話題は採用や組織制度、投資家に関する情報共有や、まれにマーケティングの実践知などです。

誤解しないでいただきたいのは、馴れ合いに時間を使いすぎるのは微妙です。「オレたちはイケてる!」「あの会社はダメ!」みたいな閉鎖的・非建設的な会話が大半になってきたなら即解散すべきです。ただ、組織の問題等でメンタルがやられているときに同じ立場で悩みを打ち明けられる相手がいる、という意味では、同じ長距離マラソンを走る起業家同士のつながりは存外馬鹿にできないインフラなのではないかとも思います。

気軽にメッセンジャーで「これどうしてる?」と質問しあえる関係があるのは意外と便利で頼もしいです。昨今はスタートアップ間の合同採用イベントも盛んなので、横のつながりがあることが効果的にはたらく市況になってきたようにも感じます。

6. 承認欲求ドリブンを否定する

「肩書ドヤや登壇ドヤをすることは本質ではない」という信念があり、肩書を不用意に増やしたり、前述のように登壇したりも基本的に回避してきました。そして「承認欲求目的で仕事しちゃダメだよ」というコミュニケーションを社内でも続けてきました。

ただし、人間やっぱり承認欲求はあるものです。すごい人だ、できる人だと思われたいという見栄は誰にでもあるし、あると思って接したほうが無難です。承認欲求があるのにそれを押し殺すのは一周まわって不健全でもある、と感じています。「承認欲求を持っちゃダメ」ではなく、それを持つ人のことを認めて、どう対処するかを考えるほうが建設的だということです。

基本的には、肩書インフレや登壇芸人化を起こすくらいなら、上司からの定期的な褒め言葉や社内表彰などで承認欲求を満たすのが最も健全だと思います。一方で、その会社の方針によっては承認欲求を社外充足するのもひとつの手だと最近は感じています。外部向けの登壇やTwitterを頑張るのは、適度に幅広いメンバーの承認欲求のガス抜きをする機会として、実は機能しているかもしれません。その広報効果により採用等が進む可能性もあります。

発信をたくさんしている会社のことは「その時間があったらプロダクトや顧客に向き合ったほうがいいのでは」という風に首を傾げていた時期もありました。ですが、真実は「プロダクトも広報も重要」という話はかつても書きました

7. 最初はマネージャ級をメンバーとして雇う

以前は、マネージャになる期待値を持って採用するメンバーであっても「まずはメンバークラスとして入社し、現場の信頼を得てからマネージャに昇格してもらいます」という運用をしていました。これは、スタートアップ業界でよく聞かれる「古参メンバーの上にいきなり新参マネージャが就くとよく揉める」という話を参考にしていたからです。

ですが、最近何名かをいきなりマネージャとして採用してみた感覚ではEffective executive(有能な経営人材)であれば最初からマネージャに任命してもうまくいきます。そうしたマネージャ自身が、社内の信頼を得るために個人との対話を重視する・驕らない・何よりしっかりチームに成果をもたらす、といった基本動作を確立できているからです。

マネージャ本人の資質はもちろん一番重要ですが、もう一方ではそのチームで働くメンバーの心構え次第でもあります。Right professionalはマネージャの実力を瞬時に見抜き、成果を出すための最大限の協力を惜しみません。こうしたプロが揃った職場なら、新任マネージャの下でもチームワークはすぐに立ち上がります。

というわけで、採用即マネージャ任命の当否は採用した人・迎える人の成熟度合い次第と言えると思います。マネージャ層であれそうでない人であれ、上記のような心構えで仕事に向き合う人なのか?を見定めて選考プロセスを進めています。

8. CEO自ら全員と1on1をする

以前は「CEO自らが1on1できるなら、そのほうがいい」と考えていました。これは、市場環境が目まぐるしく変わる中での自ら機動的に戦略の修正などを伝えられる、1on1スキルにムラがあることを懸念していた、メンバーのコンディションを自らチェックして組織戦略に活かせる、等が主な理由です。

ただし1on1の実施は”しくみ”がない中での対症療法・調整弁になってしまいがちです。1on1で問題の種を各個撃破できていることが、現状変革へとりくむ理由を減らしてしまうことも多々あります。

やるべきことは、正しくは下記だったと思います。

権限移譲: CEO-マネージャ-皆、という多層すぎない程度で階層化する
研修: 1on1スキルが属人的にならないよう、研修を通してメンバーの動機づけやコンディション・要望の吸い上げ方法等を標準化する
定期的な経営メッセージ: 事業戦略や競争環境については、そもそも全社に大して定期的に発信する機会を設ける

また「1on1で本音を話してもらえるか問題」で言うと、必ずしも誰もがCEOと直接話せて嬉しいとは限らないとも思います。スタートアップCEOは自分が思うよりも早く”絶対的に壁を感じる存在”と見なされ始めます。むしろ本音が隠されてしまったり、1on1を通して不用意なプレッシャーを感じさせてしまうこともあると思います。

もう一つの問題は、私も多いときは同時に40名くらいを自分で1on1していましたが、その状態で製品開発・営業・資金調達等も兼任すると、十中八九疲れ切ってしまいます。仮に1on1のスキルに自分が思うような差があったとしても、疲労困憊のCEOよりも元気なマネージャのほうが良い1:1ができるでしょう。素直にマネージャ層を形成して、任せるのがいいと思います。

もちろん今でも、オンデマンドでCEOと直接1on1をする権利は当然誰にでもあり、私も最優先で時間を作っています。

おわりに

こうした「あのときあれ大事にしてたけど、ほんとに重要だったっけ」という振り返りは定期的に行っており、その度に新しい発見があります。

おそらく今でも、未来の会社で悪しきレガシーとなり得るような何かが、気づかないところでムクムクと育っているはず。そう常に考え、見つけ次第即効で芽を摘んでいっています。新しく入社した人にも「入社して1週間経ったけど、違和感を持つこととかある?」とよくヒアリングしています。

みなさんがプロとしてPretiaに入社前〜入社後に感じることを、ぜひ私に直接教えてください!そういう1on1はいつでも大歓迎です。

Pretia Technologiesでは、 全方位採用強化中です!

終わり🐶

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