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『100文字ねこ』1~15

北野勇作

『100文字SF』の第二弾が出したくて『100文字ねこ』というのを提案したりしてるのですが、先方が忙しいのか相手にされていないのか、未だに読んですらもらえていません。なにしろ売れない作家なのでそれは仕方がないですが、ただ待っているのもなんだし、ツイッター上で続けている【ほぼ百字小説】から200篇選んで頭からまた見直して順番を入れ替えたり文章を直したりまた選び直したり、というのを延々続けていて、今のところこれがその最初の15篇です。これで大体どんな感じになるのかわかると思いますが、つまりまあこういうものが出したいのです、ということで。

 キャッチコピーは「もふもふ可愛い、ときどき不穏」、がいいんじゃないかと。

 
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『100文字ねこ』


 二階の物干しのすぐ前に裏の家との境のブロック塀があって、猫の通路になっている。とつとつと肉球を鳴らし、猫一匹分の幅の塀の上を猫が次々に歩いていく。夕方、交通量が増えると、後足で立って横歩きですれ違う。


 なあああお、と猫。反対側からそれに答えるように、なあああお。さらに別のところから、なあああお。そしてまた、と犬の遠吠えのごとく延々続く。いったい何匹いるのだ、と最初は不安になったものだが、じつは一匹。


 なあああお、と猫。それに答えるように、なあああお。さらに、なあああお。事情通によると、これはチューニングらしい。音程に厳しい猫が一匹いると、いつまでたっても曲までたどり着けない。鼠はいなくなるけどね。


 あの路地を通るのを怖がっていた娘は、それを言うだけでも怖いから、と理由を教えてくれず、でも四年生になったら怖くなくなってるよ。そんな言葉を信じて楽しみに待っているのに、五年生の娘はまだ教えてくれない。


 ぱらりるらりぱらりと降り出しに鳴るのは物干しの半透明波型プラスチックの屋根。すぐに台所の換気扇の上に張り出した小さなトタンがとんたとんたたとんと続くのもいつもと同じだが、今朝の雨はその後が違っている。


 屋根の上に猫の道がある。物干しのすぐ外にあるブロック塀から隣家の屋根へ飛び移った猫が、しばらくするとはるか遠くの屋根の上に。それが他の猫よりずっと速い猫がいる。猫の道にも近道や抜け道があるのだろうか。


 みあおおお、というその声の高さで遠くからでも子猫だとわかる。ブロック塀沿いのいつもの通路を通って、もうすぐうちの台所の網戸の前で鳴き始めるはず。何度か鳴いて反応がないと次の家へ行く。親猫とそっくりだ。


 なるほど、商店街の脇道からではなく、病院だった建物と銭湯の隙間を抜けてここまでたどり着いた者だけがあのカレーを食べることができるのか。秘密を教えてくれた通りすがりの白猫に礼を言い、カレー屋の前に立つ。


 朝夕に台所の横のガラス戸とブロック塀との隙間を通行する猫の親子。母猫はすたすたとまっすぐ行くが、子猫は木の枝にじゃれついたりブロック塀に前足をかけて立ってみたりと忙しい。母猫はそれをじっと待っている。


 娘とプールに行った帰り道、巨大な天使が更地に落ちていた。家に着くなり妻に娘を渡し、カメラを掴んでまた自転車に飛び乗った。どうしたの、と叫ぶ妻に、天使っ、とだけ答えて自転車を漕ぎながら見上げる空は、赤。


 小学校前の道路が広げられたとき、うかつに切ると祟りがある、とあの大木はそのままにされたのだが、そんなところに頻繁に自動車がぶつかるのは当然で、結局ある夏の朝、ダンプカーが衝突して倒れてしまったそうな。


 離陸直前、娘の手から蛙を没収したのはキャビンアテンダントで、もちろん仕事だから仕方がないが、娘のテンションは急降下。責任を持って自然に還しておきますからね、とにっこり笑う彼女に、還すわけないよ、と娘。


 物干しから見えるブロック塀の上を毎朝歩く猫、いつも同じところで立ち止まって振り向き、何かが追いつくのを待つようにして、また歩き出す。あそこを歩けば見えるのかもしれないが、猫ではないこの身には難しいな。


 家の前の道に白いチョークで線路が描かれていて、どこまでも続いているみたいに見える。そんなことを思ったのはこの歌声のせいか。ぐんぐん近づいてきて、そのまま通り過ぎた。歌声だけが線路の上を遠ざかっていく。


 買ったばかりのソファの中には大抵誰かが入っていますから、ソファを傷つけることなく入っている誰かを出すことを考えなければなりません。もちろん、ソファだけではなくその誰かの心も傷つけないように気をつけて。

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 このトーンで200篇、一冊にまとめる、というのはなかなかおもしろいのでは、とか自分では思うのですが、他人がどう思うのかはよくわかりません。コメント欄でもツイッターへのリプライでもなんでも、ご意見をいただけると嬉しいです。よろしくお願いします。

*もちろんこれも朗読自由です。朗読素材としてご自由にお使いください。

本はまだありませんが、『100文字ねこ』グッズはあります。

https://suzuri.jp/kitanoyuusaku/6637055/mug/m/white



『100文字ねこ』は、こんな本にしたいのです、という話をしてます。


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