君に贈る花

今日で結婚してから4年が経つ。
花婚式と呼ばれる物をやる予定だ。

そういったものに疎い俺は銀婚式なとは知っていたが結婚記念日の年数で贈るものを変えていく風習があることを知らなかった。

1年目には白紙の状態から幸せな将来を描こうという意味を込めてアルバムや日記帳などの紙製品を贈り。
2年目には質素倹約、贅沢を戒める意味を込めて木綿のハンカチやコットンのテーブルクロス等の綿製品を贈り。
3年目にはそろそろ倦怠期に入る年だが革のように粘り強くという意味を込めて財布やバッグ等の皮製品を贈った。
そして今年。4年目には花が咲き実がなるようにという思いを込めてお互いに花束を贈り合う。

…まぁあの子のことだから毎年何贈るか考えるのが面倒だから風習に習ってした方が楽と判断した所もありそうだけど…
と俺は少しだけ面倒くさがりな彼女に思いを馳せて笑みを零す。

さてさて。
そしてここからが問題だ。
どんな花を贈ったら喜んで貰えるかだ。
あの子のことだからどんな物でも思いを載せたものならとても綺麗な笑顔を返してくれる。
だからこそ自分の出来る限りの思いを載せた素晴らしいプレゼントをてその喜びを何倍にもしてあげたい。
いつまでも美しく咲いている君にという意味を込めてブリザーブドフラワーを贈るのも良いだろう。
オレンジ色の薔薇を11本贈るのも良い。
6月14日に合わせて6月に綺麗に咲く花を送るのも一つの手だろう。
ふむ。
どれもこれもいいなぁとは思うのだがしっくりくるものがなくもう少しで記念日が来てしまうというのに決めかねずにいる。
…そういう所が優柔不断なのよ!と彼女にバレたら言われてしまうなぁ。
でもこればっかりは性分だから仕方ない。
君のために使える時間はギリギリまで君のために尽くしたいのだ。
しかし時間はどんどん過ぎていく。
あと残り1週間。
朝から晩まで君の事を思い考えたがピンと来ないまま期限が迫る。
マズいと思い焦りを感じながらも日常を過ごしていた。
…仕事が終わり帰路に経っている時、俺はふと昔を思い出した。
これならきっと喜んで貰えるのではと思い準備に走る。
彼女のとびっきりの笑顔を思い浮かべながら。

……………………

「今回の結婚記念日も楽しかったわねー!美味しいものも食べれて貴方とずっと一緒に過ごせたし。」
「そうだな。子供が出来てからというもの2人きりでこうやって出かけることも少なくなってきてたから本当に楽しかったよ。」
「それにしても早い時間のご飯食べようだなんてどうしたの?まだ17時だってのに。」
「明るいうちに君を連れて行きたいところがあってね。という訳で今から君には車に乗って目を瞑ってて貰います。」
「ふーん…どんな物を見せてもらえるのかそれは楽しみにしなくちゃ。」

彼女を車に乗せ一時の間、目を瞑って貰い僕はある場所へと走り出す。
他愛もない話をしながらものの数分である場所に辿り着いた。
僕は未だ目を瞑ったままの彼女を丁重にエスコートしてある場所へと辿り着いた。
「よし!じゃあ目を開けて。」
「はーい。さて何がある…かな…。ここって。」
「うん。君と初めてデートした思い出の場所。」
「よく覚えてたわねー。もう10年近く前の話じゃない。私達がまだ高校生だった頃の。」
「そう。花が好きだって聞いてたから電車を乗り継いで色とりどりの綺麗な花が咲くこの場所に来たんだ。」
「懐かしいなぁ。ふふっ。ガッチガチに緊張して上手く喋れなくなってた君が今でも目に浮かぶわ」
「そういう所は忘れて欲しかったなぁ…仕方ないじゃないか。初めての彼女で何話せばいいのか分からなかったんだから。」
「あの頃は本当に男らしくなくてずっと私がリードしてたもんねー!」
「昔のことはもういいだろ!もう!今はしっかり君の事をエスコート出来てるんだから許してくれよ。」
「何言ってんだか。まだまだですよー!そういうセリフはもっと男らしくなってから言いなさい!」
俺は鼻に軽くデコピンされた。むぅ…
「それで?見せたかった景色って事はこれでおしまい?」
「…いいやまだだよ。」
緊張してきた。
ここで直ぐに言えない自分はやはりまだまだ男らしさには遠いのかもな。
「…君に贈る花の事をここ最近ずっと考えてたんだ。でもしっくり来なくて。どれもこれもありきたりなような感じがしちゃってね。」
「ふむふむ。それで?」
「俺こう思ったんだ。君には形が残るよりもこの楽しい一瞬を共有して、あの頃も本当に楽しかったと言えるような思い出を与えたいって。」
「えぇ。私そういうの大好きよ。」
「そしてこれが一番の理由。手に抱えれる程度の花束では君に気持ちを伝えられないって。ここにある沢山の…色とりどりの花達から色んな思いを込めて君に僕の気持ちを送りたい。」

「君の天真爛漫な性格も、花開くような綺麗な笑顔も、僕に対して献身的に支えてくれるその気持ちも、ちょこっと嫉妬深くて拗ねるところも、そしてこれから育んでいく沢山の幸せへの願いを込めて、ここにある色とりどりの花に想いをのせて君に届けます。」

「愛してる。凛。」

……彼女は頬を赤く耳まで染めながらそっぽを向く。
「ありがとう。とびっきりのプレゼントだったわ。」
…そしてとびっきりの、僕の大好きな最高の笑顔で、

「私も愛してるわ。優記。」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?