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東北新幹線「THRU TRAFFIC」(1982)

山下達郎さんのコンサートへ行く道中、何度も聴いていたのがこの東北新幹線。ユニット名に惑わされてはいけません。これがまた極上のシティポップなんです。
実は今月発売のレココレにメンバーだった山川恵津子さんの特集が組まれてまして、彼女のインタビューの中に、この東北新幹線の結成経緯、曲の感想等が語られてます。この記事がなかなか興味深く、この不思議なユニットが気になっておりました。

当時、八神純子のバックバンド、メルティング・ポットのメンバーだった鳴海寛(G)と山川恵津子(Key)が組んだユニットが東北新幹線。完成するすると言われて、なかなか開通しなかった東北新幹線ですが、それを模したユニット名です。八神純子もヤマハですし、このユニットは、バックミュージシャンも含めて、完全にヤマハの力で実現したものなので、ユニット名も彼等の意向とは別に、そういった力学で付けられたのかもしれません。

それにしても超完成度が高いアルバムです。これを聴いた山下達郎が彼等を招聘しようとしたという逸話があるくらい。実際、後に鳴海さんは山下達郎のバックバンドでギターを弾くこととなります(ライブアルバム「JOY」でそのプレイを聴くことが出来ます)。
鳴海寛が書くメロディのコードがユニークだったと山川さんは述懐しておりますが、確かに素敵なメロディです(但し鳴海のヴォーカルは好き嫌いが大きく分かれると思います)。

本作に参加したミュージシャンも列挙しておきます。無名のユニットに対して、豪華なミュージシャンを揃えたということがよく分かります。

Guitars: 鳴海寬
Bass: 後藤次利、高水健司、多田文信、真鍋進一(Wood)
Drums: 宮崎全弘、多田牧男、市原康、山木秀夫、野村ガン
Keyboards: 山川恵津子、鳴海寬、羽田健太郎(5)
Percussion: 浜口茂外也、石井宏太郎
Background Vocals: 東北新幹線、八神純子、和田夏代子、クリッシー・フェイス

アルバムトップは爽やかな本作を象徴するような①「Summer Touches You」。こちらは作詞作曲は鳴海寛。一瞬角松敏生ではないか…と思わせるようなイントロ、そしてメロウなギター。心地いい~。
鳴海さんのファルセットを駆使した甘いヴォーカル、これは前述の通り好き嫌いが分かれそうですね。私も最初聴いたときは気になりましたが、聴いているうちに清涼感あるヴォーカルと捉えられるようになりました。
そして何より驚きなのが間奏のスキャット&ギターソロ。これはまさにジョージ・ベンソン!! なかなか凄いですね。

洒落たシティポップの②「Up and Down」。
こちらはもう一人のメンバーの山川恵津子の作詞作曲。イントロはスティーリー・ダンの「Peg」から影響を受けたものと推察。アレンジ面では相当影響を受けているのでしょう。本作発表以降、完全に裏方に徹していた山川さんのヴォーカルもキュートでいいですよね。
この曲、途中で針飛びを起こしたような無音部分がありますが、これは意図的に行ったもの。これも山川さん流のアレンジなのでしょう。

本作中、一番メロウなバラードの③「心のままに」。
作詞作曲は鳴海寛。この曲がお好みであれば、本作全体が気に入ると思います。こういうメロウなバラードって大好物なんですよね~。
あとこの詞も大好き。大好きなあの人、でも人生を賭けてこの人と共にする…といった勇気はない、だからさようならを言う…、不倫関係なのかどうかは分かりませんが、そんな歌詞です。感情的な歌詞にこのメロウなメロディ、涙腺が緩んできます(苦笑)。

⑤「September Vallemtine」のみカバーですが、これがまた秀逸。
同じヤマハ所属だった安部恭弘が佐々木幸男に提供した名曲のカバー。鳴海さんの声質、確かに安部さんに通じるものがありますね。
「September Vallemtine」ってどういう意味かご存じですか? ホワイトデーから半年後、女性から男性に別れを切り出す日…らしいです。そんな切ない日があるんですね(苦笑)。そんな切ない曲を東北新幹線はジャージーにアレンジ。本作中、異色のナンバーですが、また同時に2人が大好きだったシンガーズ・アンリミテッドも模したアカペラ・コーラスも素敵です。ちなみにこれまた素敵なピアノは羽田健太郎。

メロウなバラードの⑥「月に寄りそって」。
作詞は来生えつこ、作曲は山川恵津子。鳴海さんと山川さんの素敵なデュエットが聞けます。鳴海さんのデヴィッド・T・ウォーカーばりのしなやなギターも魅力的。
かなりアダルトなアレンジ。この曲が好きだという方も結構いらっしゃるのではないでしょうか。

イントロが村松健のようなフュージョンタッチな⑧「Spell」。
インストナンバーですが、作詞が金京姫とクレジットされているのは、山川さんのコーラス風なパートに歌詞が付いているので、この歌詞を作られたということかと思います。もちろん鳴海寛の作品。ここでもシルキーなデヴィッド・T・ウォーカー風なギターが絶品。特にエンディングにかけてのギターソロは是非聴いて欲しい。日本でこんなギターを弾く人がいたのか…とちょっとビックリ。

こんな素敵なアルバムなんですが、当時は全くプロモーションもされず、ユニットも自然消滅していきました。山川恵津子さんはその後、アレンジャーとして大成。今月のレココレには、彼女が手掛けた名曲選として32曲がピックアップされてます。
一方鳴海寛さんはセッションギタリストとして活躍。山下達郎さんのツアーにも1年参加。デヴィッド・T・ウォーカーを思わせるギタースタイルは、多くの方を魅了しましたが、鳴海さんは2015年に亡くなれてます。早逝が悔やまれますね。


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