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櫻坂46は新世界の夢を見るか

 昨夜、櫻坂46の新曲「I want tomorrow to come」が配信にて先行公開された。

 藤吉花鈴さんが初めて表題曲のセンターを務めた「Start over!」も手がけたナスカさんが作曲、mellowさんが編曲を担当しているのだが、ロックオペラ的、プログレッシヴ・ロック的とも呼べるサウンドがファンの間で話題を呼んでいる。

 おそらく、音楽に少しでも興味のある方は一度は聞いたことがある話だと思うが、ここ数年の楽曲は美味しいところを最初に持ってくる楽曲が多い。欧米のポップスやK-POPの隆盛からの影響、音楽が必ずしもメインカルチャーではなくなったこと、最初の数秒で刺さらない楽曲はスキップされてしまいやすい等、理由はいろいろな角度から挙げられる。いずれにせよ、タイムパフォーマンスが囁かれる今、社会がせっかちになっているように感じているのは、きっとわたしだけではないだろう。

 坂道シリーズのこれまでに目を向けると、いずれも従来型のJ-POPの流れにある楽曲が表題曲に選ばれる傾向にあるが、櫻坂46は比較的トレンドやメインストリームに目配せした楽曲が選ばれやすい。今年発表された「自業自得」「何歳の頃に戻りたいのか?」はそういった文脈の中にある楽曲だった。展開が馴染みやすいのは慣れたファンにとって美点だが、正直、ファンダムの外に届いているという実感は薄かった。

 3期生の山下瞳月さんをセンターに抜擢した「自業自得」はヒットチャートをよく闘ったが、最後のひと押しが及ばなかったのは、“Buddies”と呼ばれる熱烈なファンダムの外周にある、はじめてシングルを買う人たち、或いはこれから買う可能性のあるファン層に希求ができなかった結果だと推測する。これは櫻坂46に限った問題ではなく、すべてのジャパニーズ・アイドルに共通する課題ではあるのだが……

 しかしながら、欅坂46時代から勝負所になると抜擢されてきたナスカさんが再び起用され、“再起”を図ったニュー・シングル「I want tomorrow to come」はそういった様式美を打ち破ろうとした意欲作となっている。

 複数の展開が見られる楽曲としては比較的短い、4分13秒という整理された尺の中に、リスナーを「おおっ!」と思わせる驚きが複数詰め込まれている。たとえば、最初のバラード・セクションから、一気に駆け出していくようなオペラロック的なセクションへと自然に移行。THE ALFEEやSound Horizon、クイーン、キング・クリムゾン等、ダイナミックな構成を得意とするグループのファンが思わず小躍りしてしまいそうな、そんな展開である。

 もちろん、トップアイドルの表題曲として、音楽番組でメイン・テーマになりうるパートはもちろん用意されている。ただ、フル尺でパフォーマンスをすることに意義がある、あるいは、飛ばさずに最後まで通しで聴きたくなる、そういった楽曲であることは間違いない。

 この楽曲をカップリングではなく、表題に持ってきた勇気に拍手を送りたい。激情的挑戦、あるいは理性的確信が、シーンをより面白くする。新たな展開を生み出す。

 2期生の山﨑天さんという新たな時代を牽引するアイドルによる、柔らかさという新基軸を押し出した「五月雨よ」、圧倒的な楽曲とエネルギー溢れるパフォーマンスで押し切った「Start over!」とも異なる、これまでの外に広がる世界を見据えた、大いなる第一歩。勇気ある一歩だ。

 今夜にはミュージックビデオも公開される。櫻坂46の次なる一ページを、あなたも見逃さないでほしい。

 2024.9.25
 坂岡 優

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