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そういう日を、もう少し作ってあげてもいいんじゃないか。

「え、ハッシュドビーフって、こんな簡単に作れるんだ」

仕事の休憩中に観たvlogで、ハッシュドビーフが手軽にできることを知って衝撃を受けた。

銀色のステンレス鍋で煮込まれたソレは、キラキラと輝いて見える。

ちらりと時計を見れば、11時23分。あと30分ちょっとでお昼ご飯の時間。


「よし」


輝いて見えたハッシュドビーフのvlogを閉じ、携帯片手にキッチンへ向かった。




まずは材料の確認からだ。

「牛肉は昨日買ったよね……」と思い出しながら、冷蔵庫の扉を開けると……


"夏の味"と書かれた金麦が目に入る。

一瞬手を伸ばしかけたが、仕事が残っていることを思い出し、なんとか踏みとどまった自分を褒めてあげたい。

金麦は、また夜にでも楽しもう。今はハッシュドビーフだ。

材料をテーブルに揃えていく。牛肉に玉ねぎ、あとは小麦粉とウスターソースとケチャップ。ふんふん、コンソメは1/2個必要で、あとは赤ワイン……赤ワイン?


赤ワインは、ないな。


あいにく家には、金麦しか常備されていない。赤ワインなんて、我が家ではクリスマスか年末にフラッと現れる程度だ。

「金麦じゃダメかな」

ダメに決まってる。

天ぷらを作るのならビールでもよかったけれど、今から作るのはハッシュドビーフだ。

それにビールなんて入れたら、失敗する未来が見えている。

赤ワインはどうしても必要なのか。検索をかければ、クックパッドやクラシルの別のレシピがずらりと並ぶ。便利な世の中だ本当に。


レシピを上から順に見たけれど、どうやら赤ワインなしでも問題ないらしい。


「よし」

気を取り直して、熱したフライパンにオリーブオイルを垂らした。


それからは、本当にあっという間。

牛肉と玉ねぎを炒めたら、火を止めて小麦粉を入れる。続いて水と中濃ソース、ケチャップも投入。そうそう、コンソメ1/2も忘れずに。あとは蓋をして煮込むだけ。

たぶん15分もかかっていない。

「そろそろかな」と、フタを開ければ、ホワッと湯気が立ちのぼる。ケチャップ特有の匂いも食欲をそそった。

最近お気に入りの黄色いお皿に、真っ白なご飯を気持ち少なめによそう。本当はもう少し食べたいけれど、食べたら仕事が待っている。お腹いっぱい食べて、眠くなるのは防ぎたい。

最後にハッシュドビーフをかけて完成だ。




ドライパセリや生クリームがあれば、もっとオシャレに見えるのかもしれない。でも、残念ながら家にはないし、自分で食べるのだから問題ない。

vlogのハッシュドビーフのように輝いては見えなかったけれど、これはこれで良しとしよう。



「いただきます」

口に入れると、ソレはしっかりとハッシュドビーフの味がした。さすがクックパッド様々、間違いない。


「次は赤ワインとドライパセリも用意しよう」と、気が早いが食べながら次の計画を考える。

久しぶりに作ったお昼ご飯に心も躍る。

朝と夜は家族がいるから考えて作るけれど、1人で食べるお昼ご飯はどうしても手を抜きがちだ。仕事の途中ということもあり、「いかに簡単にすませるか」を優先してしまう。

それに"1人分のご飯を作る"ことが面倒くさい。

きちんと作って食べたら心は躍るのに、面倒くささが勝ってしまう。


でも、その勝ってしまいそうになる気持ちを、グッと堪えてキッチンに立ってみる。

上手い下手は置いておいて、「誰かのため」の料理を「自分のため」にしてあげる。「午後も頑張ろう」の意味も込めて、ひと手間かける。

「そういう日を、もう少し作ってあげてもいいんじゃないか」、ハッシュドビーフをゆっくりと咀嚼しながら、そんなことを思った。


最後まで読んでいただきありがとうございました。