印度乃珈琲
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印度乃珈琲

 インドのコーヒーです。なんだか、ラジオネームっぽくていい。気に入りました。住んでる下宿のすぐ隣にクレモナ珈琲豆というお店、いや、お店というよりは素敵なご自宅の一角を珈琲部屋に改造したという感じの、子どもの頃に誰もが憧れた秘密基地のような空間があります。どんと構えてさあさあいらっしゃいというような和田アキ子のような性格のお店もいいですが、本当に店主の方は珈琲が好きなんだろうなぁと伝わってくるちんまりとした新垣結衣のような佇まいのこのお店はやはり愛おしい。
 クレモナ珈琲豆さんにはいつもお世話になっています。時は遡ること今から1年ほど前に、急に珈琲を趣味にしようと思い立って吉祥寺のロフトで珈琲を淹れるために必要な器具を揃えました。豆を砕くためのミルやらお湯を注ぐドリッパーやら、色々とお金がかかるもんだなと思いながらも、珈琲の香ばしい香りが部屋中に広がる朝はどんなにいいものだろうと、ここは奮発しました。
 そして初めて珈琲豆を購入し、珈琲の淹れ方いろはを教えてくださったのがクレモナ珈琲豆さんです。それまで珈琲になんて見向きもしなかった私は住んでいるアパートの隣の隣にこんなに素敵なロースターのお店があるなんて全く気が付きませんでした。これはもしかするときっと私が珈琲を始めたのを見兼ねた神様クレモナの魔法かとすら思いました。ところで神様って魔法を使えるのか、そもそも「クレモナ」ってのは神様の名前なのかなんなのかも知りませんが、なんだかとても清らかで響きのいい単語。
 私の性格を知っている皆さまはもうお気づきかもしれませんが、珈琲を半ば強制的に趣味に仕立て上げてから、朝に早起きして珈琲を淹れたのは実に2.3回だけ、それもかなり始めてすぐの頃。やはりどんなにいい珈琲も睡眠の悪魔の魔法には敵わないようです。いつも何かに取り憑かれたようにハマって色々と専用器具を買い揃えては、すぐに飽きていく、相変わらずのみいはあです。
 けれども安心してください、スケボーやハットや絵画セットなど、これまで数多くの趣味という趣味を押し入れの奥にしまってきた訳ですが、珈琲は未だ健在。日常になくてはならない存在となりました。大学の授業がオンラインになってからは昼休みに珈琲を淹れて飲みながら授業を受けたり、土曜日の午後に本を読みながら飲んだりと、かなり暮らしを彩ってくれている茶色い珈琲であります。
 クレモナ珈琲豆には数種類のお豆がお行儀よく並んでいます。きっと珈琲豆には日ごろからさぞかし厳しく教育をされている店主さん。その中で目を引いたのは、インドからはるばるやってきたお豆ちゃん。途中インドのどこかで運送業者のおっちゃんが昼休憩にちょいと道端に腰かけてカレーを食べているすきに何者かに袋ごと盗まれたり、豆を乗せた船が途中で海賊にジャックされたりして、インドの標高1000メートルの山から多磨の自宅までの間のどこかで何かしらのアクシデントに遭遇していたら今ここにこのお豆ちゃんたちはいないと考えると、わが子の様に思えてきて、涙が出そうで、出ない。
 さておき、インドって、紅茶のイメージが強い。だから、「ほう、インドの豆なんて珍しいですね」なんて思って買いました。しかしとんだ思い違い、なんとインドは珈琲豆の生産量世界第6位だとか。世界第6位ってすごく強いな、もう少し頑張れば表彰台ではないか!さっきの知った風のセリフ、声に出さなくて良かったです。この珈琲豆はインドのババブダンギリという、インド珈琲発祥の地で育てられたらしい。ババ・ブダンさんの名前からとった地名らしく、濁点が世界で6番目くらいに多い地名な気がする。
 そして「ナチュラル」と呼ばれる、コーヒーの果実(コーヒーチェリー)を付けたまま天日乾燥させるというちょいと変わった方法で作られたため、ワインのような芳醇な果実香がするとかしないとか。「さっぱりとした苦みと雰囲気のある甘い後味」との説明書き、まるで矢沢永吉のような味がするのか。
 以前テレビで、食レポが上手な芸人さんがその極意を語る番組で、「食べものの味を他の食べ物に例えるのはナンセンスである」と言っていたのを思い出した。確かに、分からなくもない。見てるこっちは、あなたが大画面の中で美味しそうに食べている産地直送の高糖度トマトの味の感想が知りたいのに、「あま~い、まるでイチゴのようです」なんて紹介したら満を持して出演している高糖度トマトと農家さんの立場がない。
 明日も、ワインのような珈琲を飲み、クリームシチューのような濃い一日を過ごせますように。

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板前見習いの大学生の日常の断片をエッセイに綴り発信。アナザースカイはバングラデシュとインド。