さようなら。内定先よ。

 来年の2月中に、今働いている学習塾をやめることにした。抱えている受験生全員を見送り、非受験生は代行講師に引き継ぐ。本来なら、4月から同社の正社員になる予定だった。けれども、正直もう我慢の限界だ。これまでのアルバイト時代も、嫌なことは数えきれないほどあった。授業中にもかかわらず電話対応を任されたり、他講師が遅刻したからと突然代行授業を任されたり、講師内の政権争いに巻き込まれ、精神をすり減らしたこともあった。それでも、必死にこらえてきた。自分にも責任の一端があると、自責志向で受け止めてきた。リーダーシップに磨きをかけ、教室内全体をもっとよい方向に持っていけるはずだと思い込んでいた。退職者があとを絶たないなか、「自分がこの手で何とかしなければならない」と、実態のない正義感を抱いていた。だからこそ私は、何の間違いか、就職面接を受け、内定をもらってしまった。けれど、ちょっと待て。それはミイラ取りがミイラになろうとしているに過ぎないのではないか。入社するということは、その企業の存在を誰よりも肯定するということだ。顧客から法外な授業料を徴収する一方で、従業員に十分な報酬を払わないあの企業が?

 目を覚めせ、私。私が変えてやるんだ!と躍起になって入社するのは、彼らの思うつぼだ。受験生の場合、一回80分の授業に5,000~8,000円の授業料が発生している。一方で講師の給料はどうだ。勤続3年目の私の時給は、なんと1,110円である。いや、塾と同じ建物にあるローソンの時給の方が高いじゃねーかよ。社内では、上層部のやり方に文句を言いながらも働き続けている社員も少なくない。けれど、働き続けるということは、会社の意向にYesと言っているのも同義だ。どこかの国の大統領が言っていた(曲解して)。「退職しない者たちは、賛成している。」と。

 一時期、私は頭のおかしいことを言っていた。
「ブラック企業をホワイト企業を変えられる力をつけたいんです。だから、私はこの会社の正社員になります。」
ふざけるな。ブラック企業に入ろうとする自分を必死に鼓舞しようとしているだけではないか。実に見苦しい。まるますブラック企業の勢力を拡大させてどうする。文句があるなら、そもそも入社しない。これが正解だろ。

 今まで働いてきた職場の何もかもは嫌だったわけでは決してない。生徒や同僚、かけがえのない仲間と出会うことができた。けれど、正社員として会社に忠誠を誓うことは、やはり違う。このまま先に進めば、自分の幸せを見失ってしまう。自分が下した決断を呪いながら生きることになってしまう。

 内定先の企業の方々。ごめんなさい。私の進むべき道は、どうやらそちらにはないようです。

 

 

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