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新横浜市長の記者会見でフリーランスは質問できるのか(11)

就任記者会見で質問できなかったイジメ問題

 前記事〈新横浜市長の記者会見でフリーランスは質問できるのか(10)〉で、公人の記者会見でフリーランスが挙手しているにもかかわらず、司会者から指名されず、質問できない、「フリーランスとばし」が横行している実態を明らかにした。

 そして、記事の最後で「(フリーランスの)彼ら彼女らを通じて必要な情報が得られなくなっている市民や国民も怒るべきである」と指摘した。

 実際、2021年8月30日の山中竹春横浜市長の就任記者会見でも、「フリーランスとばし」により、児童や保護者にとり切実な問題が取り上げられなかった。

 経済誌『ZAITEN』や『週刊文春』の元記者でフリーランスの坂田拓也氏は、2021年7月、『文春オンライン』に横浜市立小学校の教諭のイジメに関する記事を書いた。

横浜市教諭小4女児イジメ(前編)

横浜市教諭小4女児イジメ(後編)

 坂田氏によれば、「『文春オンライン』の7月の記事で最も読まれたものの1つ」という。

 山中市長は選挙戦で「いじめの防止・スクールソーシャルワーカー(寺澤注:いじめなどの問題の解決にあたる専門家)の配置拡充」を公約の1つに掲げて当選した。坂田氏は取材を通じて横浜市のイジメ防止対策やスクールソーシャルワーカー制度の不備を感じており、山中市長の就任記者会見に参加し、疑問点を問いただそうとした。

 ところが、就任記者会見で坂田氏が手を挙げても、司会者(横浜市女性職員)はフリーランスをガン無視し、横浜市政記者会(記者クラブ)の記者ばかり指名する。

 記者会見開始から24分後、フリーランスで初めて畠山理仁氏が指名され、山中市長の経歴詐称などの疑惑について質問した。

 記者会見開始から31分後、フリーランスで2人目の横田一氏が指名され、平原敏英副市長がカジノ業者から違法な接待を受けていたという疑惑について質問した。

 畠山氏と横田氏の質問は週刊誌やネットメディアの報道を受けてのものだったが、横浜市政記者会の記者は誰も質問しなかった。山中市長や横浜市当局にとり都合の悪い質問だったことは間違いない。

 横田氏の質問に山中市長が答え終わると、突如、司会者が「本日は、これで終了したいと思います」と記者会見を打ち切った。まだ坂田氏も含む大勢が手を挙げているにもかかわらずだ。

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坂田拓也氏(8月30日の山中竹春横浜市長の就任記者会見が終わったあと、関内駅近くで打ち合わせ中に撮影)

2回目の記者会見も「フリーランスとばし」

 山中市長の2回目の記者会見は9月17日に開かれることになった。しかし、坂田氏は「先約があり、参加できない」と言う。そこで、私が坂田氏から情報を提供してもらい、イジメ問題について質問することになった。

 2回目の記者会見は、冒頭、山中市長が「新型コロナウイルス感染症対策加速化プラン」を発表。14分が経過する。

 続いて、司会者(横浜市女性職員)が「テーマ(新型コロナウイルス感染症対策加速化プラン)についての質問」と限定し、質疑応答が始まった。横浜市政記者会の共同通信(幹事社)、毎日新聞、読売新聞、東京新聞、神奈川新聞、日経新聞の順番で記者が指名され、最後に横田氏が指名された。記者会見開始から30分が経過していた。

「テーマに関する質問はよろしいですか(挙手する者なし)。続いて、一般質問に入ります。幹事社、お願いします」

 司会者が告げると、共同通信の記者がIR(カジノを含む統合型リゾート)誘致の撤回などについて質問した。質疑応答は6分間。

 共同通信の記者が「幹事社からは以上です。各社さん、お願いします」と促すと、私も含む数人が手を挙げた。しかし、ここで奇妙な現象が発生する。司会者が誰も指名しないまま、時間が過ぎていくのだ。

 不自然な間のあと、「東京新聞」と司会者が指名した。後刻、私より後方で会場全体を見渡していた畠山氏に確認すると、「フリーランスしか手を挙げていないので、横浜市政記者会の記者が手を挙げるまで、司会者が待っていた」と苦笑した。

 2回目の記者会見でも「フリーランスとばし」が行われることは確実となり、私は思わず、「マジかよ」と声をあげた。

 その後も司会者はフリーランスをガン無視し、「朝日新聞」「NHK」「朝日新聞」(2回目)と横浜市政記者会の記者ばかり指名した。私は怒りで不規則発言しないようペットボトル飲料を口に含み続けた。

「フリーランスとばし」で山中市長を追及

 当日、私は白いポロシャツと黒いマスクで記者会見に参加した。司会者が指名しやすくするためだ。

「真ん中の白い服の…」

 記者会見開始から51分後、私がフリーランスで初めて指名された。以下、質疑応答(敬称略)。

寺澤 ジャーナリストの寺澤有ですけれども、前回、山中さんの最初の記者会見がありました。本日、2回目の記者会見が開かれてますけれども、我々フリーランスは最初から手を挙げてますけれども、最初、この記者クラブ(横浜市政記者会)の人たちが10人以上、同じ会社の人が複数指名されて、しかも重複する質問があります。何で、こういう不公正で差別的な記者会見の運営してるんですか。私、本当に怒ってるんですけど、何で、こうやって記者クラブと出来レースで記者会見やってんですか。答えてください。

山中 はい。ありがとうございます。あの、いただいた、ご意見、あの…。

寺澤 いや、ご意見じゃなくて事実なんだから、どういう理由でやってんの。

山中 はい。えー、まず、これ、市政クラブ(横浜市政記者会)と横浜市役所の共同の記者会見でございまして、そのうえで、あのー、フリーランスの方々の、まあ、横田さん、さっき、あのー、えー、ご質問していただきましたが、あのー、そういった運営に関して、えー、お感じのことに関しては、あのー、真摯に受け止めて、あのー、たいと思います。はい。

寺澤 前回も、山中さんの選挙期間中から、パワハラ疑惑とか経歴詐称疑惑っていうものが、取り沙汰されてましたよね。で、それに関して、記者クラブの人たちは一切きかないで、我々フリーランスが数人質問したところで、司会者が質問を打ち切りました。こういう、要するに自分に都合の悪い質問が、我々フリーランス、あるいはネットメディア、あるいは週刊誌の記者から出る。それは困るということで、こういうように我々を後回しにして、本当に都合が悪くなったら、司会者に言って、質問打ち切らせる、会見終了させると。そういうふうにしてるんじゃないんですか。

山中 いえ、あの、決して、そのようなことはございませんで、誤解を与えてしまっていたら申しわけないんですが、まず、その市政のことに関して、市政クラブの方にご質問をいただき、ご回答をし、また、合わせて、そういったフリーランスの方々のご質問に関しても、いろいろですね、時間の範囲で、ご回答させていただきたいと考えております。また、この、参加の、参加していただける方々の基準に関しては、国の基準にのっとって、参加していただいているところでございますし、また、広く質問をいただいて、ご回答するという機会、その確保に努めてまいる、まいっているところです。

イジメ問題の調査と対策を約束

「フリーランスとばし」は日本国憲法が保障する「取材・報道の自由」や「国民の知る権利」の侵害だ。これを座視して記者会見で質問するなど、欺瞞もはなはだしい。以下、質疑応答の続き。

寺澤 じゃあ、ちょっと気を取り直して質問しますけどね。あの、前回、そういうことで、挙手していながら質問できなかったフリーランスの坂田拓也さんって人がいるんですが、その方は、今年の7月に『文春オンライン』で、「横浜市教諭が小4女児に陰湿イジメ」という記事を発表しています。それで、まあ、この記事の内容というのは、どういうことかというと、「横浜市のM小学校4年生の担任だった40代の男性N教諭が、特定の児童に対して『配布物を渡さない』『行事で役割を与えない』『給食を少なく盛る』など執拗ないじめを繰り返し、不登校に追い込んでいた」という、そういう内容なんです。
 これに関しては、女児の両親のほうがですね、3月に弁護士に依頼して、学校あるいは教育委員会にはたらきかけた結果ですね、事実関係の確認等を求めた結果、今年の6月に学校側が「本校教諭による児童へのいじめ、虐待について」「本件についての学校の対応、不備について」「今後の対応と再発防止について」という緊急保護者説明会を開くに至りました。つまり、事実関係を認めて、しかも、この当該女児以外にも同様の扱いを受けた児童がいるということを認めたうえで、そういうようなことをやってるわけです。
 で、質問なんですけれども、山中さんは選挙期間中の公約で「日本一の教育都市・横浜を目指す!」というようなことを言われてましたよね(山中市長、うなずく)。で、その中には「いじめの防止」というものも入ってました。しかし、この「いじめの防止」というのは、どうも、子どもと子どもの関係でおっしゃってるような感じだと思われます。
 で、実際には、こういった教師が、もう絶対的に権力を持ってる教師が子どもをいじめるというようなことも現実で起きてる。しかも、この『文春オンライン』の記事を見て、横浜市内のほかの学校の保護者の方たちからも坂田さんのところに情報提供があって、今、続報を準備しているということで、ちょっと、今日、そういった関係の取材もあって、坂田さん来られなかったんで、私もちょっとかかわったことがあるので、1点質問させてもらいますが、そういう現状があると、横浜市にあるということを踏まえて、では、じゃあ、山中新市長はどうされるのかと。どういう対応・対策を、この問題についてしていくのかということをおうかがいしたいんですが。

山中 ありがとうございます。まあ、イジメに関しては、子どもと学校でのイジメに関しては、子どもと子どもだけではなく、おっしゃるとおり、教諭、教員から、子どもへのいじめ、これは断じてあってはならないことであります。昨日もですね、私、議会でイジメに関して答弁したさいは、そういった子ども間だけでなくて、広く、学校という場で、イジメに関して根絶をする。断じてあってはならない。そういうふうな思いもあり、申し上げておりましたので、決して、そういった、報道されていた内容に関して、見過ごすつもりはございません。で、そのうえで、今後ですね、再発の防止という観点のことをお尋ねされているかと思いますが、やはり、そういった現状をですね、いち早く知る。そういった取り組み。子どもに関して、何かのアラートを発しているようであれば、それをいち早くキャッチしなければいけませんし、では、アラートを発していない場合に関して、どうしていくのか。そういった多面的な面からの対策が必要となります。
 くり返しになりますが、イジメに関しては、断じてあってはなりませんので、そことしては、そちらに関…、その、ご指摘いただいた件に関しては、重々、ご指摘、重要なご指摘と踏まえまして、横浜市としても、全力をもって対応してまいります。貴重なご意見ありがとうございます。

寺澤 で、1つ、ちょっと追加で、今ので、ききますけどね。この、あの、山中さんの選挙の公約の中に、「スクールソーシャルワーカーの配置拡充」っていうのもありましたよね(山中市長、うなずく)。で、まあ、そういったこともイジメ防止に役立てたいということですが、今回、この、あの、女児のケース、あるいは、その女児と同じような教師からイジメを受けていたという児童たちの、あるいは、その児童の保護者の証言によれば、教育委員会ですとか、あるいは、このスクールソーシャルワーカーのほうにも、もちろん申し出てるんですけど、学校だけではなくて。しかし、自分たちはそれは管轄外だとか、あるいは身内をかばうようなですね、言動をくり返されて、結局、弁護士を依頼してというようなことになったわけです。こういう身内をかばう体質ってのは、どういう組織もあって、特に、この横浜市のような大きな組織では、そうだと思うんですけれども、じゃあ、これを、どうしてね、どのようにして、今、言われた、市長が「断じて許さない」ということですけど、「断じて許さない」っていうことにつなげていけるのかが知りたいんですけど。

山中 はい。あの、まあ、その、今、ご指摘いただいている案件について、まず詳細をですね、私も担当部局のほうに、改めて、まあ、存じ上げておりましたが、改めて確認し、再発防止の徹底に資するような対策を講じたいと思います。

寺澤 わかりました。じゃあ、(隔週開催の)再来週以降の記者会見で坂田さん本人が来て、また改めて質問すると思いますんで、きちんと調査して、ご回答できるように、よろしくお願いします(山中市長、うなずく)。

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都合の悪い質問が続き、やはり記者会見は打ち切り

 私の次に司会者が指名したのは畠山氏。畠山氏は「前回、会見が途中で終わってしまったので、前回からの続きということでうかがいます」と前置きして、まず山中市長のパワハラ疑惑について質問した。

 山中市長は「(教授を務めていた)横浜市立大学でパワハラを指摘されたことはない」と答えたが、パワハラを指摘するネットの記事などに対して法的措置をとることは、「横浜市政に集中すべき」と否定した。

 続いて、畠山氏は、横浜市長選挙の告示日(2021年8月8日)の13日前(同年7月26日)、横浜市立大学が理事長・学長名で全教職員へ宛て、「山中先生におかれましては、これまで素晴らしい研究成果や学内のご実績により、横浜市立大学のプレゼンスを高めてくださりました」などとする文書を発出したのは、山中市長が圧力をかけたからではないかという疑惑について質問した。

 山中市長は「圧力をかけた事実はない」と答えた。

 畠山氏と山中市長との質疑応答が終わると、司会者が「(記者会見開始から)1時間を超えており、次のスケジュールもございますので、あと、1社、1問でお願いします」と告げた。

 ネットメディア『SAKISIRU(サキシル)』の西谷格氏が指名され、山中市長の経歴詐称疑惑について質問した。山中市長は疑惑を否定する回答をしたが、疑問点は解消されず、西谷氏は2問目を口にしはじめた。

 すると、司会者が「1問で、残り1問でお願いします」と口を挟んだ。すかさず、畠山氏が「これ、大事だと思います」と声をあげ、西谷氏を援護した。

 しかし、2問目に対する山中市長の回答も疑問点を解消するものとはいえず、西谷氏は「そのときは、現地(アメリカ国立衛生研究所)では、どういう役職だったんですか」と短く質問した。すると、またしても、司会者が「最後にしてください」と口を挟んだ。

 山中市長は「研究員に相当する言葉」と答えたが、西谷氏が「英語で」と尋ねても、英語の肩書きは答えなかった。その後も英語の肩書きに関する問答が続いたが、司会者が「以上で定例会見終了いたします」と打ち切った。記者会見開始から75分後のことだった。

 途端、横田氏が「(カジノ業者から違法な接待を受けていたという疑惑について)平原副市長に対する聞き取りはやったんですか」と声をあげた。山中市長は「平原副市長には個別にヒアリングをいたしました」と答えた。引き続き、ヒアリングの結果と追加の調査の必要性に関する質疑応答が行われた。

「以上で終わります」

 司会者が再度告げて、山中市長の2回目の記者会見は終了した。まだフリーランスで挙手している者もいた。なお、最後の横田氏と山中市長との質疑応答は、横浜市のホームページの「会見質疑要旨」では、なかったことにされている。

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※山中竹春市長の2回目の記者会見の様子は、畠山理仁氏が動画と文字おこしで公開しています。

動画
山中竹春横浜市長記者会見(2021年9月17日撮影)

文字おこし
山中竹春横浜市長記者会見・全文起こし(2021年9月17日)

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