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カネは魔物 武富士事件(中)

金額欄が空白の和解文書

 2003年12月15日、武井保雄前武富士会長は電気通信事業法違反(盗聴)で起訴されたときから、執行猶予つきの判決が言い渡されるよう、必死に動いてきた。

 検事の冒頭陳述によれば、「武井被告は窃盗、銃刀法違反などの前科10犯があり、強姦未遂の前歴もある(被害女性と示談が成立し、告訴が取り下げられたため、起訴できなかったと思われる)」という。裁判所から「犯罪性向がある」と断じられ、実刑判決が言い渡されてもおかしくない犯歴だ。

 武井前会長は1930年1月4日生まれで70代半ばも近く、慢性の肝臓病を患っている。今さら刑務所へ行くのは懲り懲りに違いない。

 まず、武井前会長はマスコミとの名誉毀損訴訟を終結させるべく動いた。「盗聴は事実無根」などと主張し、高額の損害賠償を請求した訴訟がそのままでは、いかにも心証が悪い。

 2003年12月下旬、武富士は集英社と私に和解を申し入れてきた。当初から私は「武富士が名誉毀損訴訟を提起したのは、言論弾圧が目的で、それ自体が不法行為。ホームページで誹謗中傷されたこととあわせ、反訴(逆に損害賠償や謝罪広告を請求)する」と表明していた。だから、武富士が「訴訟を取り下げたい」と申し出ても、こちらが同意しないことは明らかなので(いちど訴訟が始まれば、取り下げにも相手の同意が必要)、「和解」と言わざるを得ないわけだ。

 2004年2月3日、武富士から『和解条項(案)』なるものが送られてきた。その第1項と第2項を見て、私は怒りで手が震えた。

《1 原告(武富士)は、被告寺澤有に対し、本件和解金として、金□□□□万円の支払義務があることを認める。
 2 原告は、被告寺澤に対し、前項の金員を、平成16年2月□日限り、被告寺澤代理人の銀行口座(□□□□□□□)に振り込む方法で支払う》(□は空白)

 最初からカネの話である。第3項で「原告ホームページ上の記述が不適切であったことを認め、これを陳謝する」とさらりと言い、第4項で「被告寺澤は、原告ホームページ上での被告寺澤に関する記述が名誉毀損であるとして武井保雄を被告訴人として行った刑事告訴を取り下げる」(名誉毀損は強姦などと同じく親告罪であるため、告訴が取り下げられれば、起訴できない)と要求する。まったく虫がいいにもほどがある。

 2月6日、東京地裁で和解協議が開かれた。私は『和解条項(案)』の第1項の空白に「1兆円」と赤ボールペンで記入し、提出した。

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