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欧州でのSAKEブームの盲点 ~後編~

こんにちは。
株式会社小林順蔵商店の小林佑太朗です。
今回は、海外(欧州)でのSAKEブームにおける盲点 ~後編~ を語っていきたいと思います。

予想以上に長くなっちゃったので、前編、後編に分けました。
前回の続きです。宜しければ、「欧州でのSAKEブームの盲点 ~前編~」から読んでみてください♪

前編のおさらい

前編では、
・日本ではどうやって日本酒が(改めて)受け入れられてきているか
・海外(欧州)での酒類業界の取り組み
・そのうえで浮かび上がってきたSAKEブームの盲点


を簡単に語ってきました。

後編では、具体的に以下の3つの盲点とはどのようなものなのかを語っていきたいと思います。

①PRされている高品質な日本酒と実際に一般の現地消費者が日々触れている日本酒に大きく違いがある
②SAKEと誤認されている中国産のお酒や外国産日本酒と日本産高品質日本酒との違いが分からない
③現地消費者にとって日本酒に関して学ぶ環境が非常に少ない


盲点①「PRされている高品質な日本酒と実際に一般の現地消費者が日々触れている日本酒に大きく違いがある」

大使館イベントや日本酒レクチャーで振舞わる日本酒は、もちろん日本産の高品質な日本酒です。
きちんとした日本酒に関する説明もあり、その日本酒に適した温度で提供されたりして、間違いなく美味しいです。
参加されている政府関係者や業界関係者は、主催者側の酒蔵や業界団体、JETROなどに積極的に質問をしながら高品質な日本酒を理解し、楽しんでくれます。

ただ、残念ながらそういった高品質の日本産日本酒はその国にまだ輸入されていなかったり、置いていても一部の高級店でのみ取り扱われていて、気軽に飲むことができないのが実情です。

あまり日本酒の飲んだことがない一般の現地人が、日本酒を飲もうとすると、まずトライしに行くのは大衆的な日本風アジア料理店やSUSHIチェーンレストランです。
まだまだ大半の現地人は日本や日本食、日本酒をよく(多くの場合はほとんど)知りません。そのため、日本人が経営しているような本格的日本食レストランは高価格だけど、日本風アジア料理店との違いが良く分からないため、どちらかといったら安価な日本風アジア料理店に訪れます。

そのようなレストランは、大衆向けなので高品質な日本産日本酒をたくさん取りそろえることはしません。大方、外国産の日本酒をメニューに1つ「SAKE」と銘柄不明な日本酒が載せられている程度です。(その多くは、外国産日本酒であることが多いです、)
しかも、従業員は日本人ではないことが多く、日本酒に関する知識も持っていない人が多いため、(たとえば)沸騰するくらい熱い温度に熱した日本酒をお銚子に入れてお猪口と共に提供するのです。

欧州では、熱いアルコール飲料がほとんどありません。あるとしたら、グリューワインエッグノッグくらいでしょうか。どちらも日常的に飲むお酒ではなく、ある一定のイベントやシーズンの時に習慣的に飲むものです。
そういった文化的な背景の中、見たこともないような容器に入った熱いお酒と小さなコップを渡されて、全く日本酒に関する情報を知らないまま、飲んでいるのです。
もちろん、リピートされません。

日本でも、ほとんど知らない国独自のお酒を風変わりな容器に入れられて提供されて、飲み方も美味しさの評価の仕方も分からなかったら、好きになるわけないですよね?
というか、なれるわけないですよね。

そういった状況によって、すでにファーストコンタクトの時点から現地のアルコール消費者は日本酒に対して悪印象を持ってしまって、その結果もう日本酒をトライしなくなっちゃうのです。

盲点②「SAKEと誤認されている中国産のお酒や外国産日本酒と日本産高品質日本酒との違いが分からない」

日本をよく知らない現地人からしたら、「SAKE」と書いてあるアルコールは、全て日本酒なんです。

最近は少なくなってきましたが、少し前までは中国産や韓国産のアルコールを「SAKE」とメニューに書いて提供している大衆店もありました。
日本食の無形世界遺産登録から、そういった全く誤った日本酒の提供は少なくなってきました(と信じたい。。)が、今でも外国産日本酒を日本で製造された日本酒とあたかも同じかのように「SAKE」と表記して提供しているレストランは少なくありません。

まず、行っておかなければならないのは、私は一概に「外国産日本酒はまがい物だ!偽物だ!」と言いたいわけではないのです。
大手の日本酒製造業者の多くがアメリカやオーストラリアやアジアなどで工場を建設して、現地で日本酒を製造しています。
それは、ひとえに日本酒を輸出するにも品質的な面、ロット的な面からどうしても現地の一般消費者の方々に行き渡らない、もしくは高価格になってしまう、というのを解消するために試行錯誤の結果、製造されているものだと思います。その結果、日本酒ビギナーの現地人が、比較的リーズナブルに日本酒を楽しむことが出来ていることは紛れもない事実だと思います。
それ自体に何の罪もないです。

ただ、現在輸出に取り組んでいる中小中堅の酒蔵(いわゆる地酒蔵)の製造する高品質高価格な日本酒と、大規模な酒蔵が海外で製造している外国産日本酒は、まったく性質の違うものだ、ということを理解しないといけないのです。

日本での全体の消費量が落ち込んできている中、中小中堅の酒蔵が生き残るには海外市場は目を背けていられない市場です。しかし、大規模な酒蔵と比較するとどうしても価格での勝負をすることは難しいのです。国内製造コストでも難しいのに、海外に現地工場を建設してコストカットする、なんてのは夢のまた夢です(もちろん、最大限の企業努力はされています。)。

その反面、品質面で勝負をしていく必要があります。原料米や精米歩合、醸造技術にこだわり、各酒蔵の歴史やストーリーが反映された素晴らしい商品を製造し、海外市場に訴求していきます。
その分、商品単価も高くなりますし、日本から輸送されることによりその分のコストも上乗せされます。

しかし、残念ながら日本酒に馴染みのないディストリビューターやレストランは、その違いは分かりません。そもそも日本自体もよく知らないし、日本酒なんて飲んだことも聞いたこともない。そのような業者が、とりあえず日本酒をラインナップに入れておこうとすると、まずは価格的には安価な外国産「SAKE」を取りそろえます。

もちろん、そういった業者は日本酒の保存方法や提供方法、飲酒方法に関しても知識が乏しいため、ステレオタイプな熱燗でいわゆる「SAKE」を提供するのです。

結果的に、現地の一般消費者は、「日本酒は美味しくないし、よく分からないし、そもそも熱い酒なんで飲みたくないし、日本食食べるときにパフォーマンス的に飲むだけにしとこう」となってしまうのです。

最近では欧米の食文化に合わせて、日本酒を冷たい温度でワイングラスで提供する業者も増えてきました。
日本やきちんと日本産日本酒を提供する現地のレストランで日本酒を飲んだ人は、その香りの華やかさ、米の甘味、食事とのマッチングに大きなプラスの衝撃を受けて、日本酒ファンになる人は少なくありません。

しかし、欧州の現地人が日々訪れるようなレストランやワインショップでは、そのような体験が出来る(そのようなことを伝授できる)場所は非常に限られているのが現状です。

盲点③「現地消費者にとって日本酒に関して学ぶ環境が非常に少ない」

上で話していた通り、現地消費者は日本酒に関して全然知らないのです。
もちろん知らないので、彼らは毎日自分の好きなピザやパスタを食べて、ビールやワインを飲んでいるのです。

彼らに日本酒を飲んでもらおうと思うと、どうやってか彼らに「日本酒の素晴らしさ」を伝える必要があります。
しかし、残念ながら現地の消費者が「日本酒の素晴らしさ」に触れる環境は身近にあるとは言い難いのが現状です。

それは、
・今市場に存在する「SAKE」がどのようなものか分からない
・そもそも日本酒が身近にない
・日本酒を知ろうと思う動機がない、きっかけがない

といったところが理由となると思います。

市場にある「SAKE」がよくわからない、日本酒が身近にない、といったところは上のほうで簡単にお話ししたと思うので、「日本酒を知ろうと思う動機がない、きっかけがない」というところを少しお話ししてみたいと思います。

現地の消費者が日本酒に興味を持つようになるには、「日本酒ってすごく面白い商品だよ!」とか「こんなに美味しいよ!」、「一度試してみてよ!」といった外的なアクションがあって初めて興味を持つのだと思います。

前編でも話したように、日本でも同じような感じですよね!
いつも行く居酒屋で面白そうな日本酒があって、店員さんに「こんなに面白い商品だし、美味しいから是非一度試してくださいよ!」なんて教えてもらったら一度は試してみますよね!
そのきっかけから、日本酒が大好きになった!って人も結構いると思います。

でも、そういった現地の消費者が日常的に訪れるようなレストランや小売店、ワインショップなどには、日本酒のことを知ってる人が多いとは言えないのが現状です
彼らが知らないと、もちろん現地の消費者にその素晴らしさを伝えることはできません。また、彼らもそれらを知るには商品を仕入れしている食品・飲料ディストリビューターから、「日本酒って商品が面白いから、ぜひキミのお店にで提供してみなよ!」とプッシュされたり、別の情報源から「日本酒っていう面白い商品があるらしい」って調べないと分からないですよね。
もっと言うと、ディストリビューターもどこからかの情報で「日本酒が面白いぞ!」と学ばないと商品を流通させようとは思いません。

ただ、現状ではまだまだそのようないわゆる現地系のディスとリビューターやレストラン、ワインショップや小売店にそういった「日本酒は面白い!美味しい!」という情報を得られるような環境にはなっていません。

まだまだ一部の既に日本酒を取り扱っている業者(ディストリビューターやその顧客)に情報が偏ってしまっているのです。

もちろん、日本酒に関する英語で発行されている本や、セミナーなども欧州には存在します。
ただ、それらの本を購入したり、セミナーを受講しようとするにも、やはりきっかけが必要なのです。

あえて、言い切ってしまうと、そのきっかけが現地系ディストリビューターや飲食関係者にないため、現地の消費者に日本酒を試す機会が提供できておらず、結果的にそもそもの欧州での日本酒市場のパイが大きくなっていかないのではないかと私は考えています

最後に

改めて申し上げると、現状必死に日本酒の素晴らしさを伝えようとしている事業者や政府関係者、業界団体の活動を否定するものではありません。

むしろ、彼らの活動をより後押しできないか?少しでも私に出来ることはないか?と思い、自分の現地での実体験と色々な人からのヒアリングから考察させて頂きました。

弊社は、欧州市場をメインに、日本酒を中心とした日本産アルコールの輸出を行う貿易商社です。また、日本酒のことを現地の方々に分かってほしい!と思い、日本酒に興味を持った!積極的に調べたい!と少しでも感じたプロフェッショナル(海外のディストリビューターや飲食関係者)に、日本や日本酒に関する基本情報やお役立ち情報、NEWSなどを提供したり、最終的に実際の商品供給までサポートできるようなウェブメディアを立ち上げております。

今後、もっともっと欧州で日本酒が知られ、そして商品の輸出もどんどん増えていくことを願って日々活動しております。

それでは、この辺で♪


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